活躍した自治体トップが活躍できた理由

日本でも同じ現象が起きていて、安倍政権のコロナ対応が低評価のオンパレードなだけに、国に先んじて最前線で決断を下す自治体トップのリーダーシップが光る。

20年2月末の早い段階で北海道独自の緊急事態宣言を発出した鈴木直道道知事。休業要請を解除する大阪モデルの発表など、大阪の実情に寄り添った具体的な施策を次々と打ち出している吉村洋文府知事。ツイッターやメディア出演を通じて昼夜問わず情報発信し、政策判断の根拠を数字と自分の言葉で示す姿勢に好感が持たれて、「♯吉村寝ろ」がトレンドワードに上がった。感染状況を通天閣や太陽の塔のライトアップの色で府民に周知するアイデアも素晴らしい。

感染の疑いがあっても自宅待機を呼びかける厚生労働省のガイドラインに反対して、迅速なPCR検査と感染経路の追跡を行い県内の感染拡大を防いだ和歌山県の仁坂吉伸知事。鳥取県の平井伸治知事も「疑わしきはPCR検査」を掲げて、早々とドライブスルー方式やウオークイン方式のPCR検査を導入した。演劇やコンサートの無観客公演を支援するプロジェクトなど、特色ある施策を繰り出している。

東京都の小池百合子知事も、さすがの「小池劇場」的発信力で、メディア露出で「3密」「ロックダウン」「ステイホーム週間」といった言葉を世に浸透させた。東京オリンピックの開催延期が決まるやコロナ対応に切り替え、国に先駆け、他県を差し置いて「都民ファースト」で施策を打ち出す姿に強いリーダーシップを見出す人もいる一方で、「20年7月の都知事選に向けたパフォーマンスが鼻につく」と感じる人もいるだろう。

存在感を高めているのは、知事ばかりではない。国や県に先んじた独自の休業補償や家賃補助、給付金の先払いなど、コロナ禍に苦しむ地元のために踏ん張っている自治体のリーダーが各地にいる。千葉市の熊谷俊人市長もその1人だ。行政手腕や危機管理能力、発信力や行動力を評価する声は前々から高かったが、コロナ対応においてもSNSやメディアを通じて積極的に情報発信や提言を行って、千葉市独自の感染予防対策や学童対策、個人および事業者に向けた支援策を打ち出している。市民との直接対話も好評だ。

幅広い事業者や医療従事者を対象に、100億円規模という破格の支援策を発表したのは福岡市の高島宗一郎市長。高島市長といえば、博多駅前で大規模な道路陥没事故が発生したときに、迅速な対応で市民の安全を確保しつつ、スピード復旧させて危機管理能力の高さを示した。今回の支援策もリーダーとして危機対応の感度の高さがうかがえる。

コロナ対応という新たなステージは、地方のリーダーたちの危機管理能力の違いを見事に浮き上がらせた。都道府県知事の6割は中央省庁の官僚出身だが、キャリア官僚から転じた首長から有効な提言や手立てはほとんど発信されていない。平時なら中央でのキャリアとパイプを頼りに、地域課題に向き合っていれば務まるのかもしれない。しかし、新型コロナという有事下ではまったく通用しない。国の対応が後手後手に回っているのに、国の顔色をうかがい、政府の指示や支援に頼っていては状況を前に動かせるはずがない。

頭角を現してきた地方の若いリーダーの多くは霞が関とは無関係で、いずれも前例にとらわれない発想と決断ができる。吉村大阪府知事は元弁護士だし、熊谷千葉市長はNTTコミュニケーションズの出身(政治を志して私が主宰する「一新塾」に入塾した)、高島福岡市長は九州朝日放送の元アナウンサーだ。

前例のない状況に放り込まれたとき、前例主義の役人は判断ができない。役人や政治家とは違う世界で学んだ経験を持つ地方のリーダーにこれほどスポットライトが当たるのは、戦後初めてのことではないかと思う。それほど平時から有事へとステージが変わったということだろう。