普通に生活を送っていた人が、何の前触れもなく犯罪に巻き込まれて命を落とす不幸な事件が続いている。今年3月には、茨城県で手配中の容疑者が、警察官の張り込み中に通行人を次々に襲い、8人が死傷。その翌々日には、岡山県で駅のホームを歩いていた男性が、「誰でもよかった」という理由で少年に突き落とされて死亡した。
こうした事件の加害者の処遇は刑事訴訟法に則って粛々と進められ、マスコミでも取り上げられる。だが被害者や遺族のその後に生活については、あまり報じられない。とくに一家の大黒柱が被害に遭った場合、経済的被害も深刻なはずだ。自分や家族がこのような犯罪に巻き込まれたら、どのように対応すればいいのか。
加害者へ損害賠償を求める場合、これまでは民事訴訟を自ら起こす必要があった。ただ、裁判で証拠として提出するために刑事裁判の公判記録をコピーしたり、訴訟の手続きを弁護士に依頼するなど、裁判費用が膨らんでいく。経済的な苦境に陥りやすい被害者にとって、これは大きな負担だった。
こうした負担を減らすため、2007年に刑事訴訟法等を改正して導入されたのが、「損害賠償命令」制度だ。荘司雅彦弁護士は、次のように解説する。
「この制度は、被害者が刑事裁判所に申し立てをすれば、刑事裁判の有罪判決後、同じ裁判官が損害賠償の審理をして賠償額を決定するものです。対象は故意による殺人や傷害、強姦や誘拐など一部の事件に限られますが、この制度により、被害者は申立費用2000円だけで民事と同様の審理を受けられ、負担が大きく軽減されることになります」
ところが、すぐに賠償金が必要で結審まで待てないときなどは、損害賠償命令制度を利用せず、民事で提訴したほうがいいケースもある。このような場合や、同制度を適用できない事件の場合は、どうすればいいのか。これは加害者側に資力があるときと、そうでないときに分けて考える必要がある。