今年3月より、あらたに労働契約法が施行された。労働・基準・法などと混同しがちだが、労働基準法を含め、従来型の労働法規には、最低条件を守らない企業側を「罰則で取り締まる」という性格のものが多かった。一方、労働契約法には罰則規定は置かれていないうえ、労働基準監督署のように、違反に目を光らせる監督機関も定められていない。いったいどういう目的でつくられた法律なのだろうか。
たとえば、就職活動の結果、内定をもらい、ある会社に勤める。この営みも、従業員と会社とで「働きます」「給料出します」という合意に基づく契約の一種であり、これを労働契約と呼ぶ。民法を学んだ経験のある皆さんは、雇用契約という概念を聞いたことがあるだろうが、ほぼ同じ意味と考えてよい。
一般に、お互いに納得できていれば、よほど社会的に不当といえない限り、どんな内容の約束事をしようが有効とされる。これは「契約自由」なる、高度経済社会の生命線というべき大原則だ。
労働契約も、双方が話し合って納得できていれば、その合意内容に任せることが本筋である。ただし、企業側と従業員とでは、事実上の立場に差がある場合がほとんどで、従業員側にとって不利な条件を強いられがちなのが現状といえる。そこで労働基準法などは、立場の弱い従業員の側に、あえて法律が肩入れすることによって、労使間の実質的な平等を目指したのである。
とはいえ、SOHOや高度専門職など、就業形態の多様化もみられることから、均質な労働者像を前提としてきた従来の労働法制では対応しきれず、制度疲労がみられるようになってきた。労働トラブルの相談件数は年々増加の一途をたどっているという。
そこで、裁判所が出してきた判例の蓄積をもとに、個別の労働契約が有効なものかどうか、大きな基準を抽出して提示したのが、労働契約法という新法である。全19条からなる。