日本のストリップには“花電車”と呼ばれる特別な芸がある。だが、いま披露できるのは10人もいない。いまや貴重な存在となった現役の“花電車芸人”が、タイ・バンコクでその芸を披露した。すると当初は歓迎していなかった関係者たちも、続々とその芸に魅了されていった――。(第3回/全3回)
※本稿は、八木澤高明『花電車芸人 色街を彩った女たち』(角川新書)の一部を再編集したものです。
「ここで披露して、誰かが芸を受け継いでくれたら」
翌日午後4時、私たちはタクシーで開店前のバーへと向かった。その車中で今日のステージの意義を尋ねると、ヨーコは言った。
「今日、私がここでステージをやることで、日本で花電車芸がなくなったとしても、もしかして彼女たちが私の芸に何かを感じ、私の芸を受け継いでくれれば、この国に花電車の伝統は生き続ける。今はそんな気持ちです」
車窓から流れゆくバンコクの風景を眺めながら、私はヨーコの心意気に感銘を受けずにはいられなかった。
タクシーを下り、バーへ向かって歩いていくと、人相の悪い女が話しかけてきた。
「今日、ステージをやるのはあなたたちか?」
昨日までは見かけなかった顔だ。バーの関係者だろう。あまりにも無愛想で、我々を歓迎していないのは一目瞭然だった。