日本のストリップには“花電車”と呼ばれる特別な芸がある。だが、いま披露できるのは10人もいない。その芸をタイ・バンコクで披露しようとした現役花電車芸人の挑戦を、ノンフィクション作家・八木澤高明氏が追う――。(第2回/全3回)
※本稿は、八木澤高明『花電車芸人 色街を彩った女たち』(角川新書)の一部を再編集したものです。
芸の説明に厳しい顔をするタイ人ママ
私は別の取材を終えた後、パッポンストリートを歩いてバーへと戻ることにした。時刻は午後10時を回ろうとしていたが、先ほど以上に人があふれている。通りの露店では、偽物のロレックスやルイヴィトンのバッグなどが、堂々と売られている。
バーに戻ってから私がやらなければならないのは、経営者との交渉である。すでに、バンコク在住の友人にこのバーを何度か訪ねてもらい、内諾は得ていた。今日は最終確認をして、明日にはヨーコがバンコクに来る段取りになっていた。
先ほどよりは客が入っていたバーでしばし待っていると、ママだという40代と思しき女性が現れた。彼女に、明日には日本のストリッパーが来て芸を披露するからよろしく頼みます、と告げた。
「問題はありませんが、どんなことをやるんですか?」
「すでに聞いていたと思いますが、女性器から火を噴く芸をやらせてもらいたいです」
すると、なぜかママの表情がにわかに厳しくなった。「ちょっと待ってください」と言うと、携帯電話を片手に店の奥へと消えた。