昨今、「二極化」や、「勝ち組」「負け組」といった言葉がマスコミで盛んに使われている。
こうした思考法のベースにあるのが、「勝ち以外は負け」「勝者になれなければ惨めな敗者」という2分法にほかならない。
しかし、それは本当なのか、という根本的な疑問を、今から約2500年も前に投げかけたのが、中国の古典『孫子』だった。
『孫子』は、中国古代、春秋時代の末期に活躍した孫武という将軍が書いたといわれる兵法書だ。孫武は、当時の戦争の有り様を考察することにより、戦いには「勝ち/負け」以外にもう1つ、「不敗」の状態があるのではないか、と考えたのだ。
『孫子』には、こんな言葉がある。
不敗の態勢をつくれるかどうかは己次第になるが、勝利できるかどうかは敵次第となる(勝つべからざるは己に在るも、勝つべきは敵にあり「軍形篇」)
これは、ビジネスに喩えるとわかりやすい指摘だ。
たとえば、ある会社が、ライバル企業とシェア争いを繰り広げているとしよう。両社の規模や商品にあまり差がなく、営業担当同士が同じだけの努力を重ねていれば、おそらく一進一退、ちょっと勝ったり負けたりの状況が続くだろう。
この状況を、『孫子』は「不敗」と呼ぶ。そしてこの「不敗」は、相手に匹敵する努力を続ける限り「己次第」、つまり自力で達成可能なのだ。
しかし、突然ライバル企業が、不祥事でマスコミの糾弾を受けたり、辣腕の営業担当に辞められてしまったとする。これは絶好のチャンス到来であり、一挙にこちらがシェアを伸ばすことも可能だ。つまり勝利は「敵次第」となるのだ。
『孫子』は、この「不敗」と「勝利」の違いに鑑み、次のような戦いの道筋を考えた。
・戦上手は、自軍を「不敗」の態勢におき、敵が隙を見せれば「勝利」を目指した(善く戦う者は、先ず勝つべからざるをなして、以って敵の勝つべきを待つ「軍形篇」)
「勝ち/負け」という単純な2分法に「不敗」が入ることで、すぐれて戦略的な発想になっていることがわかる言葉だ。