「サッポロ4位転落、サントリー初の3位に」
前年のビール系飲料出荷数量が出揃った2009年1月、衝撃的なニュースが流れた。現場の士気に影響しそうな事態だが、当事者たちはどんな思いで受け止めたのか。
「これといって感想はありませんよ」。サッポロビールの凄腕営業マン、箭内道隆は悔しさを押し殺して淡々と答えた。
「年間ではシェア逆転を許しましたが、10~12月期はうちが上回っていますし、1月に入ってからも好調です。私たちは右往左往せずにサッポロのおいしさや、お店にどうやって利益をあげていただくかを誠実に訴えていく。それだけですよ」
箭内がそう語るのは、千葉県市原市の丘陵地に広がるゴルフ場「セントレジャーゴルフクラブ市原」の見晴らしのいいクラブハウスだ。
1992年の入社以来、東京・多摩地区や滋賀・湖南地区で営業マンとしての腕を磨いてきた。04年9月千葉支社に転じ、現在は副支社長の肩書を持つ。
箭内は千葉への着任以来、担当エリアの販売量を18%も伸ばしたトップセールスマンだ。とりわけ07年11月から首都圏の飲食店向けに販売開始した「琥珀ヱビス」の売り込みでは最多の32件を獲得した。
ここセントレジャーゴルフクラブ市原も、箭内の活躍によってレストランの生ビールを08年4月に他メーカーから「ヱビス」と琥珀ヱビスにひっくり返した店である。どんなテクニックを使ったのだろうか。
「大事なのはテクニックよりも卸や酒販店、飲食店といった周囲の方々との信頼関係を深めることです。店頭にただビールを置いておくのではなく、商品の特徴を理解し、来店するお客様においしく飲んでいただきたい。そのうえで、お店には適正な利益をあげていただきたい。いつもそういっています。僕という“ビールバカ”が、ビールについて熱く語るんですよ(笑)」
もっとも、以上は表向きの話。酒販店に足を運べば、社長や営業担当者だけではなく配送係にも声をかけるのが箭内流だ。