独立は、報酬に対する不満から始まる

話を戻そう。冒頭で述べた吉本興業の待遇改善だが、この流れに他の芸能事務所も追随する可能性は高いだろう。そこで私が注目しているのは、近い将来「5万円」の壁が取り払われた後、「タレントが自分で直接取ってきた仕事のギャラは、9割タレントがもらえる」といったところまでいくかどうかである。

先述した「直営業のギャラは5万円まで黙認」ルールは、あくまでも売れていない芸能人向けの対策であり、果たして売れっ子に対しても同様のことができるかどうか──そのあたりにも注目している。

事務所は、芸能人本人の営業力を評価して直営業を容認し、事務所の施設や稽古場の使用も許可。並行して、事務所が獲得してきた仕事については、引き続きマネジメントなどを行う。そうしたやり方が実現すれば、事務所としても売れっ子が独立するリスクを下げられるだろうし、タレントとしてもいざというときに頼れる後ろ盾を持ちつつ、大金を稼げるようになる。

これだけ事務所からの人材流出が続いている芸能界だからこそ、私は思い切った施策を取り入れるべきだと思うし、そうする可能性も高いと考えている。私はいま「芸能界における人材マネジメント」に本気で注目しているのだ。もしも芸能界で、人材流出を抑えるための新しい動きが出てきたら、一般企業でも同様のことを試す価値は十分にあるだろう。

たとえば、会社の給与規定を「年俸の7倍の売り上げを達成できたら、それ以降は売り上げの60%を受け取ってよい」などと変更してみるのだ。具体的な数字は業界や会社によって異なってくるだろうが、こうしたメリットを設定すれば、社員としては「会社の看板や組織力を使って自分のポケットマネーを大幅に増やせる!」とモチベーションが高まるだろうし、この会社に残るほうが有利だと考えるようになるかもしれない。

とどのつまり、独立するかどうかの最大のポイントは「本当であれば、オレはもっと収入を得ているはずなのに……」といった、報酬に対する違和感、不信感を抱くかどうかなのだ。そんなとき、自分の才覚ひとつでもっと稼げる制度が社内に存在していたら、それを活用することでモヤモヤを払拭できるかもしれない。役員よりも稼ぐような平社員が出てきたら、これはこれで痛快である。

芸能界の報酬制度改革、待遇改善の取り組みを見逃すな

ここまで書いてきたことは荒唐無稽に思えるかもしれない。ただ、芸能界は明石家さんまのような大物が、事務所に所属しながら個人事務所も立ち上げることを容認するなど、実は人事面で進んでいるところがあるのだ。

私は社員が自分も含めて2人だけの零細企業を営んでいるが、報酬制度については若干芸能事務所を参考にしている部分がある。

私が社長だが、報酬額を決める際に一切口を挟まない。現場業務を見事にさばきつつ、経理業務も担当してくれている社員のY嬢と税理士が2人で相談し、その年の貢献ポイントにより私とY嬢の報酬を決めていくのだ。

ときどきY嬢が「社長、ボーナスをもらってもいいでしょうか」などと相談してくることもあるが、私は「おぉ、いくらでもいいぞ」とだけ言う。彼女は「では、税理士と相談しますね」と返して、話は終わりだ。あとは後日「社長! ボーナスもらえました」「で、いくらだった?」「外車が買えるくらいでしょうか」「おぉ、よくやった!」といった会話で盛り上がるくらいである。

この「貢献ポイントを、数字にもとづいて第三者が判定する」「それにより、報酬額を決めていく」というやり方で11年やってきたが、Y嬢と私のあいだでトラブルになったことはまったくないし、2人とも報酬額に不満を持ったこともない。弊社としては、今後とも芸能事務所の報酬制度を常に注視し、よいと思われる仕組みは積極的に導入していくつもりだ。

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・旧態依然としていて、ブラックボックスの多そうな芸能事務所の報酬制度だが、闇営業や独立ラッシュなどを経て、変化の兆しが見られるようになった。
・社員のモチベーション向上や人材流出を抑えるために、芸能事務所の新たな施策がヒントになるかもしれない。今後の動向に注目だ。
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