芸能界の「闇営業」問題に絡んだ“予兆”
2019年、世間で盛んに話題にされたことのひとつが、芸能界の「闇営業」である。
この闇営業について「タレントが反社会勢力の仕事を受注すること」と理解している人も少なくないが、本来の意味は「タレントが事務所を通さずに仕事を受注し、中間マージンを抜かれることなく報酬を得ること」を指している。
昨年は多くの芸人が謹慎処分をくらったが、なかには事務所からマージンとして抜かれる額が多過ぎて、困窮のあまり闇営業に手を染めた者もいた。
そして2020年、闇営業問題でもっとも目立った吉本興業は(ロンドンブーツ1号2号の田村淳がコメントしていたことによると)、報酬が5万円までの仕事であれば、事務所を通さずに引き受けてもよいことになったという。これは、芸能事務所としては大幅な譲歩といえる。
こうした動きは、今後、芸能人と事務所の関係性が変わっていくことの予兆と捉えてもよいだろう。そしてこの機運を、単に芸能界だけの変化として、対岸の火事のように眺めているだけではいけないとも思う。むしろ、効果的な人材マネジメントのヒントとして、一般企業としても動向を注視しておく必要があると、私は考えている。
ひとたび売れたら大金持ち。だから耐える
芸人の貧乏話はいろいろ耳にするが、私が聞いたなかでもっともすさまじかったのは「1カ月の給料が13円」というものだ。2000年代半ばごろ、芸能人がこぞって参入していた「着ボイス」のダウンロード1回分の印税額だという。しかもこれは芸人本人が自腹でダウンロードしたものらしい。仮に販売額が100円だったとしたら、87円は本人の「持ち出し」に相当することになる。
「芸能人」という職業は当たれば超大金持ちになれるだけに、売れていない時代の極貧も「自分はまだ下積み中だから」などと甘んじて受け入れる素地がある。さらに事務所は「貧乏がつらい? オマエが売れないのが悪い」「オマエを育てるためにこれまでいくらかかったと思っているのだ」といった調子で、時には突き放すようなことすら言ってくる。確かに正論なのだが、やりがいを搾取していると見ることもできそうだ。
とはいえ、ひとたび売れてしまえば月収が何千万単位、億単位になったりすることもある世界。だから彼らは事務所の方針に従い、売れる日を夢みて働き続ける。