恋愛リアリティショー『テラスハウス』に出演していたプロレスラーの女性が、自ら命を絶った。SNS経由で視聴者から容赦なく送られてきた誹謗中傷、罵詈雑言が女性を追い詰めたとみられている。ネットニュース編集者の中川淳一郎さんは「SNSの普及でバカが拡声器を手にした。相手を死に追いやるような、一方的な罵詈雑言などもってのほかだ」という──。
サムズアップのポーズとサムズダウンが描かれたアイコンが一面にばらまかれている様子
写真=iStock.com/peepo
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とある女性の死から浮かび上がるSNSの異常性

“恋愛リアリティショー”をうたう番組『テラスハウス』の出演者で、プロレスラーの木村花さんが亡くなった。自殺とみられている。

この痛ましい出来事については、すでにテレビのワイドショーなどで大きく取り上げられ、ネットにもさまざまな記事が掲載されている。そのため、ここで経緯などは詳記しないが、木村さんが自ら死を選んだ背景として「自身のSNSアカウントに寄せられた視聴者とおぼしき人々からの罵詈ばり雑言、誹謗ひぼう中傷があまりにひどく、それが彼女を精神的に追い詰めたのではないか」といったことが伝えられている。

私は本件の第一報に触れた直後、「クイック・ジャパン ウェブ」に〈『テラハ』木村花さん逝去「糾弾者に最高のツール」であるSNSはもうやめよう〉という記事を寄せた。内容はタイトルどおりなのだが、SNSというものは日々の暮らしを便利にしてくれる反面、極めて異常性をはらんだツールでもある──そういったことを伝えたかった。

理不尽な言葉で攻撃されても、泣き寝入りするしかないのか

SNSの異常さを、いくつか整理してみよう。

・個人の連絡先を全世界に公開しているような状態。冷静に考えてみれば、見ず知らずの人間が勝手に接触してくるかもしれないなんて、不気味である。常識的に考えて、個人の電話番号や住所、メアドなどは不用意に公表しないもの。しかしSNSを介すると、多くの人々は慎重さを忘れてしまう。

・公共的には何の価値もないような人間であっても自由に発言することができ、しかもそれが過激であるほど注目されてしまう。

・誰かの名誉を傷つける発言、事実に反する発言など、不穏当な発信をしてもなかなか責任が問われない。名誉毀損や業務妨害などで訴えられそうになっても、ひとまずIDを削除してしまえば、逃げることができる。被害者が法的な解決を求めることも可能だが、その際は発信者情報の開示請求、弁護士の手配、裁判の準備など、多大な手間とカネがかかる。

結局、どんなに理不尽な言葉でボコボコに叩かれたとしても、言われた側(被害者)が泣き寝入りするしかない状況が長年続いてきたのである。「悔しいけど、ネットにはもともと、そういった負の一面もあるのだから、仕方ないよね」「いちいち相手にしていたら、こちらが疲弊してしまう」といった諦観も、誹謗中傷を受けた被害者たちの妥協につながってきた。