歯の浮くような美辞麗句を並べ過ぎではないか

ジャニー喜多川は、そんなにすごい人だったのか。

7月9日の午後、彼が亡くなってからメディアで報じられた大量のジャニー礼賛記事を読みながら、長嘆息した。

日本のメディアには、「死んだ人の悪口は書かない」という不文律のようなものがある。だが、あまりにも歯の浮くような美辞麗句を並べ過ぎではないか。

翌日のスポーツ紙は全紙、一面全部を使って彼の死を悼んだ。「キムタク『ゆっくり休んでください』ジャニーさん天国へ」(日刊スポーツ)「ジャニー喜多川さん逝く SMAP、嵐…帝国築いたアイドルの父」(スポーツニッポン)など、最大の賛辞を送った。

7月10日、ジャニー喜多川氏の死去を伝えるニュースは大きく報じられた。(写真=EPA/時事通信フォト)

スポーツ紙は致し方ないと思うが、朝日新聞も一面で取り上げた。

「1931年、米ロサンゼルスで生まれた。10代で、公演で現地を訪れた美空ひばりらの通訳をし、ショービジネスの基礎を学んだ。その後、日本で、コーチをしていた少年野球チーム『ジャニーズ』からメンバーをスカウトし、62年、同名グループのマネジメントのためジャニーズ事務所を設立した。

70~80年代にかけてフォーリーブスや郷ひろみ、近藤真彦、田原俊彦、少年隊、光GENJIら時代を代表する人気タレントが次々と輩出。日本の歌謡界で歌って踊れる『男性アイドル』というジャンルを定着させた。その後、世に送り出したSMAP、TOKIO、V6、嵐などがヒット曲を連発。マルチタレントとして幅広い世代から支持を集めることに成功した」(7月10日付)

どんな偉大な人間にも表の顔と裏の顔がある

翌日の「天声人語」もこう書いている。

「これほど名を知られていながら、これほど素顔を知られぬまま旅立った人も珍しいのではないか。訃報(ふほう)の写真のジャニー喜多川さんは、帽子をかぶり、サングラスをかけている。表情も年齢も読みとりがたい▼素顔や肉声をさらさない主義で知られた。同僚者によると、取材には毎回、撮影不可という条件が付された。『劇場の客席で観衆の反応をつかむため、顔を公開したくない』などの理由が挙げられた▼『ユー、やっちゃいなよ』。そんな言い回しで知られたが、取材には折り目正しい日本語をゆっくり話し、敬語も丁寧だった。ジャニーズらしさとは何かと尋ねると、『品の良さ』と答えたという」

すぐにでも国民栄誉賞を与えろといわんばかりの持ち上げ方である。

週刊誌、特に新聞社系がそれに追随した。「追悼・ジャニーさん そして『伝説』は『神話』へと」(『サンデー毎日』7/28号)「追悼 ジャニーさん、ありがとう」(『週刊朝日』7/26号)。朝日は表紙に、ジャニーズ事務所のタレントが表紙になった号をズラッと並べた。

中でも『AERA』は、「追悼・ジャニーさん『YOU! やっちゃいなよ』胸に刻んだ」と銘打ち、大特集を組んだのである。

どんな偉大な人間にも表の顔と裏の顔があり、建前と本音がある。ましてや芸能界という荒海の中で生き抜くためには、清濁を併せ呑む度量が要求されたはずだ。多角的な視点からジャニー喜多川という人間を見なければ、まっとうな評価はできない。