シングルマザーの貧困率は高い。一方、夫がいても、家庭内の問題などで事実上シングルマザーと同じような経済状況に陥ることがある。性風俗で働く女性たちを支援する坂爪真吾氏は、「児童扶養手当などの支援制度は、夫と死別・離婚した女性でないと利用できないことが多い。そのため高収入のデリヘルで働く既婚の母親たちがいる」という――。
※本稿は、坂爪真吾『性風俗シングルマザー』(集英社新書)の一部を再編集したものです。
事実上のワンオペ育児に苦しむ母親たち
人口約80万人の政令指定都市(県庁所在地)、S市。2019(令和元)年8月現在の世帯数は約34万世帯であり、そのうちひとり親世帯(母子・父子)は約4400世帯。そのうちの約4000世帯が母子世帯である。
そのひとり親世帯の統計には含まれないが、夫婦の関係不和や家庭内の問題によって事実上のワンオペ育児を強いられている「隠れシングルマザー」もいる。S市内のデリヘルの待機部屋ではごく日常的に出会う存在である。
児童扶養手当を含め、シングルマザーに関する支援制度やサービスは、夫と死別・離婚した女性でないと利用できないことが多い。夫と離婚できないがゆえに、あるいは離婚するまでのつなぎの仕事として、デリヘルを選ぶ女性は少なくない。
杉本玲美さんは、現在32歳。出身はS市で、現在は結婚してS市に隣接するA町に住んでいる。
子どもは11歳の長女(小6)、6歳の長男(小1)、4歳の次男(年中組)の3人。夫(37歳)・義父(無職)・義母(現役で働いている)と同居している。
高校卒業後、S市内の飲食店に勤務していた際に、現在の夫(当時24歳)と出会った。
交際を始めてから間もなく、妊娠が発覚。玲美さんはまだ19歳だった。
妊娠を報告したところ、「じゃあ、結婚しよっか」と言われ、そのままできちゃった婚をすることに。
妊娠が発覚した後、飲食店は退職した。入籍後はA町にある夫の実家に入り、家の近くのスーパーでレジのパートを始めて、臨月まで働いた。