「衰退する商家」に共通すること

小嶋は、その後、また同じような事例で相談を受けた。

その会社は店数が増えているために増収にはなっているものの利益が落ちていた。売り上げに比較して借入金が過大になっており、その借り入れの相手先は大部分が社長の一族。それも一般の金融機関より高い利率で、会社にとっては、利息の支払いと、一族に支払われている給与が大きな負担になっていたという。

社長一族の生活は派手になっており、要は商売の儲けを個人の贅沢に向けていたのである。

いずれも、会社の内容に比較して個人資産が異常に膨張しており、それはもとはといえば、「公と私のけじめのなさが原因」と小嶋は言う。

経営者の方は自らを商売熱心と自認し、また実際によく働いているのだが、その目的が個人資産の増加になっている。

「公私のけじめが失われることは、衰退する商家の図式」と小嶋は言い切る。

業種や規模の大小、個人事業か法人かの別に関係なく、どこでも起こりうる問題で、つまるところ経営者が事業をどのように考えているか、経営哲学が問われているのだ。

公私の区別は従業員より経営者、あるいはその一族が明確に守らなければならない。

東海 友和『イオンを創った女の仕事学校 小嶋千鶴子の教え』(プレジデント社)

経営者が、自分の店、自分の会社を自己の所有物のように考え、自分や家族、そして子供のためのお金儲けの道具として考えてしまったら、その時点で経営者として失格である。金儲けを考えるときには経営者を降りろとさえ言う。

そうならないためには、経営者が、1.自らに厳しく2.絶対無私であり、3.己より会社、組織を優先させることが必要であると、小嶋は多くの経営者に説く。

「公平」という考えを自分を含めた会社全体に徹底し、一生懸命働く人、能率を上げる人、あるいは業績に貢献した人には、それに応じた待遇なり処遇をせよという。

この公平さや公正さは、経営者側からだけでなく、従業員の側から見ても納得できるものであらねばならない。

何を公とし、何を私とするかは経営者の経営哲学そのものであり、それこそが企業が真に発展、拡大できるかどうかの最初の一歩なのである。

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