家業からの脱皮を成功させた「公私の区別」
そういった自身の生家の環境に加え、その後の見聞を広めるにつれ、小嶋は「会社の財産と家族の財産が密接に結びついているということは、会社発展の足枷になる」、さらには「会社は社会の公器であり、その公の場所で生じた利益については、経営者の身勝手にしてはならず、公のものとすべし」との考えを強めていったように思う。
かつて、小嶋がとある会社を訪れた帰りの車の中で、
「あのなあ、東海君。ようけ会社があるが、つまらんことをしている会社が多いなあ」
と言ったあとに、次のようなことを話した。
「会社を税金対策として考え、自宅を寮にしたり、ガスや水道、電気、食べ物まで会社経費で処理をする。さらには、奥さんを経理部長、おじいちゃんやおばあちゃんまで従業員にして給与を支給したりして蓄財をする人がいる。事業を家人だけでしているならともかく、従業員を一人でも雇用したら、これではいかんわな。事業を大きくしようということを経営者自らが放棄しているわな」
と言うのである。
「うちは私が子供の時分から『奥(私)』と『店』の区別がはっきりしていたし、今でいう就業規則があった。特に『公私の区別』は厳しかった」と。
家業から事業への実質的な脱皮を、公と私の区別を経営者がしていないことにより、自らその成長・拡大を放棄しているというのである。
資金繰りに苦しむ会社に放った「一言」
実際に相当の規模になった会社でも「公私の区別」ができていないことがある。
『あしあと』(※)の中で、ある小売店の店主の方から経営についての相談を受けたことを書いている。相談の主目的が資金繰りで苦しくなっているということで、内容を詳しく聞いたところ、売り上げから抜かれた現金が、個人資産として預金されていた。
※小嶋千鶴子自身が、81歳の時に刊行した自伝。一般には販売されず、イオングループ現役社員に配布される。
会社の借り入れの担保には個人の不動産と個人名義の預金が提供されており、担保があるから借り入れができているものの、会社の資金繰りや会社の損益勘定は赤信号が灯っている。
それに対し、小嶋は問題の所在は明らかであるとして「公私のけじめがついていないことがそのまま数字に表れている」ときっぱりと言った。その後、その会社は経理の制度整備を断行し、業績が回復したという。