日本一の流通業「イオングループ」は、日本の郊外の風景を一変させた。そんなイオンは30代以下の世代にとって「子供の頃から慣れ親しんだ場所」だ。マーケティングライターの牛窪恵氏は「『初デートはイオン』と語る若者も多い。イオンは今や『インフラ』になった。人々の営みがイオンに集中する現象はこれからも続くだろう」と分析する――。

親とイオンが心地いい若者たち

今の30代やその下の世代に、「結婚しても、実家の近くに住みたい」「そこにイオンがあればなおよい」と考える男女が増えています。

多くの若者が、少しでも早く親元を離れて、都会や海外へ出て活躍したいと願った時代がありました。当時の憧れは、ちょっと背伸びした高級ブランドや、おしゃれなロフト付きのワンルームマンション、そしてカッコイイ車。しかし、もはやそれは今の20~30代にとって、理想とする姿ではないのです。

街に、等身大のイオンがあれば安心。イオンは自分たちの味方で、日常使いで困ることはほとんどない。そして今は「休日レジャー」の場としてすっかり定着し、友人や家族と娯楽を楽しむ場としても利用できます。

なぜ、そしていつから若者は、イオンを求めるようになったのでしょうか。

「とりあえずビール」って意味分からない

牛窪恵氏。『イオンを創った女』(プレジデント社)を手に。(撮影=プレジデント社書籍編集部)

そこには、時代背景があります。私が「草食系男子」の本を書いたのが、2008年の秋でした。その2年前から、酒造メーカーと自動車メーカーからご相談を受けて、当時の20代半ば、現在の30代半ばの男女に対し、インタビュー調査を始めました。のちに私が「草食系世代」と呼ぶようになった世代です。

両社の悩みは、「今の若い男性は車に乗りたがらない」、あるいは「お酒を飲みたがらない」。これがなぜなのか、自分たちには理解できない、というものでした。そこで草食系世代の若者100人に、グループインタビューやデプスインタビュー(1対1の面談式インタビュー)を行ったのです。

彼らからまず出てきたのが、「ビールって飲んで何になるんスか?」「『とりあえずビール』って、意味わかんない」という声。

私やスタッフの多くは、彼らより10歳以上、上の世代です。初めは、面食らいました。「飲んで何になる?……なぜそんなことを考えるんだろう」「おいしいから飲むに決まってるじゃないか」。でもインタビューを繰り返すうちに、分かったことがあります。

それは、彼らが「結果」を考えてから動く世代だということ。車についても、「買った直後はうれしくても、手入れとか維持が大変じゃないスか」といった声が、次々と飛び出しました。確かにその通り。でも私たちが若いころは、そんなこと考えなかったのになぁ……。

そして、彼らが重視する2つのキーワードが浮かび上がったのです。1つが「コスパ(コストパフォーマンス)」、もう1つが「自己責任」でした。