「初デートがイオン」はよくある話
旧ジャスコグループが「イオングループ」に変わったのは、平成元年、1989年のことでした。この時代に生まれ育った30代以下の世代は、物心ついたときからイオンがありました。イオンはいわば地元、親元の近くにある、等身大で安らげる場所です。
経済評論家の大前研一さんはイオン大好きな「イオニスト」の存在を指摘しますが、分かる気がします。私たちがインタビューしても、「初デートがイオン」や「クリスマスは家族でイオンで過ごす」といった話がよく出てきます。子供のころから慣れ親しんだ場所だけに、大人になった今、地元で集まる際も、「イオンに集合ね!」と言い合う。そこに安心感や、昔からの思い出が詰まっているからです。
イオン人気は、もちろん若者だけのものではありません。40~50代のファミリー層や、60代以上のシニア層にも人気なのは、特にこの10年で「二世代」「三世代」が楽しめる空間を創り上げてきたからです。
シニア世代にインタビュー調査をした際、こんな声があがりました。「普段あまり若い人と接する機会がないけれど、イオンのベンチで本を読みながら座っていると、若い人たちが元気に行き交う様子を肌で感じられる。だからイオンが好き」。人ごみのざわざわした空気を胸に吸い込むことで、安らぎを覚えるそうです。
イオンは「インフラ」になった
かつては「団塊世代が70代、80代になると、運転しなくなり、郊外型のイオンは廃れる」とも言われました。しかし岡山や旭川など、駅前型のイオンが増えています。何より「自動運転」が予想以上に早く、生活に浸透しそうな勢いです。事故を防ぐ「自動ブレーキ」はいち早く義務化の動きが進んでいます。安全に車を使えるなら、シニアが車を手放す必要はなくなります。
つまり郊外型のイオンも、以前予想された以上に長く存続するでしょう。イオンはもはや、あらゆる人たちの生活に欠かせない「インフラ」となっているのです。
イオンのそばで暮らしたい、そんな20代、30代の若者が親になっていくにつれ、ますます人々の営みがイオンに集中するという現象は進んでいくのかもしれません。全世代が「イオン」に集まり、日本全体が等身大の「イオン化」していく。
でもそれって、悪いことではない気がします。人口減少で国内の経済成長が難しい日本にあって、イオンはこれまで以上に「われわれの味方」でいてくれると思うからです。
マーケティングライター
1968年東京生まれ。マーケティング会社インフィニティ代表取締役。現在、立教大学大学院(MBA)博士課程前期。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)などがある。