合併で“新たな人材”が集まる
イオンの歴史は合併の歴史そのもの、といっても過言ではない。
1967年に岡田屋社長の岡田卓也(現イオン名誉会長)が、フタギの二木一一社長に「合併」と書いたメモを渡したところから始まった。そこに大阪のシロが加わり、日本ユナイテッド・ストアーズ株式会社(ジャパン・ユナイテッド・ストアーズ・カンパニー:通称ジャスコ)が誕生した。その後も、合併自体を根幹の戦略とし、今日の日本一の流通業となった。
岡田卓也が「合併」を成長の基本戦略としたのは、四日市という土地の影響が小さくない。四日市では1914年(大正3年)に三重紡績と大阪紡績が合併し、東洋紡績(現東洋紡)が誕生。事業を拡大していったという歴史がある。それに影響を受けたのだろう。
小嶋は「規模の拡大こそが企業の存続を可能にし、かつ小売業の近代化に結びつく。それがひいては多くの社員の生活をも保証することになる」といった信念に基づいて、合併会社を形成していった。
岡田屋では、早くから合併を意識しており、社内に「組織制度委員会」を発足し、ノウハウを蓄積していた。3社による合併以前に、静岡のマルサ、伊勢のカワムラ、豊橋の浦柴屋などとの提携も行っていた。
「企業の合併にはさまざまなメリットがあげられるが、特に大きなメリットは多くの有為な人材が得られるということである。つまり、組織の基盤が安泰になることにより、そこに新たな人材が集まるのである」
小嶋千鶴子は、門外不出の著書『あしあと』の中でこのように言っている。
人心の一体化には“機会均等”と“公正”
合併をすればそれで大きくなれるかというと、そんなことはない。
企業合併には3つの形がある。1つは「法的合併」。2つめは組織やシステムの統一をおこなう「組織の合併」。3つ目は人間同士の心が一体となる「心の合併」だ。前の2つは時間をかければ成し遂げることができるが、3つめの「心の合併」は容易ではない。トップ同士の合意はもちろんのこと、従業員同士の協力があって初めて成し遂げられる。
「いうまでもなく、企業を動かすのは人、である。企業組織は、心をもった人間集団によって形成されている。人々の高いモラールに支えられた企業は強い。逆に、やる気をなくした人間集団から大きなエネルギーを引き出すことはできない。買収など強権をもってしても、人心をつかみ得ない限り、合併作業はうまくいかないものである」
つづいて、「人心の一体化に当たって最も大切なことは、社員のポストや給与待遇綿において徹底した機会均等と公正の原則を貫くことである」と小嶋は言っている。人心をつかむためには、「組織制度・正しい運営」「機会均等」「公正な評価や基準」「教育制度」「人事制度」を地道に作り上げていくしかない。
「合併後いつまでも企業として一体化せず、人的なトラブルが続き、効果を得ない企業の実例を、われわれは数多くみることができる」
つまり、小嶋は「人的融合」をもって合併の完成とした。