「弟を日本一にする」。イオングループ創業者・岡田卓也の実姉・小嶋千鶴子は、その言葉通り、家業の岡田屋呉服店を日本最大の流通企業に育てた。人事や組織経営の専門家だった小嶋は、一体なにをしてきたのか。『イオンを創った女』(プレジデント社刊)の著者・東海友和氏は「小嶋は『3年後』を基準に人事を差配していた」と振り返る――。
(撮影=プレジデント社書籍編集部)

「3年後の人名入りの組織図」を書く

組織は人間がつくるものである。言い換えれば、組織は人の構成によって初めて完成し、機能するものである。

イオングループは、毎年3月・9月が人事異動の時期であった。

その前に人事異動方針案を小嶋に提出をするのだが、小嶋はほとんど朱を入れることない。私たちは次の作業である「○○年度組織図」を空白のまま、経営企画室とともに作成することになる。その案を見せても、なんとも返答はない。

そこで、小嶋はOKなのだと思い次の段階に進もうとすると、突然「この組織図に人名を入れなさい!」と指示が来る。そして、組織図に人名を入れて持っていくと、今度は「3年後の人名入りの組織図を書いて持って来い」という。

ここからの業務が大変である。

3年後の全社の規模を見込んで、目標組織図を書き、新たな職位、職務を想定しながら、人名を入れるのである。「空白」部分がないよう、能力開発部長と一緒に、企業内専門職育成期間である「ジャスコ大学」の修了者名簿を見ながら、昇格・解職を想定して編制することになる。それでも空白が埋まらない職位はそのままにして小嶋に提出をする。

すると小嶋は3年後の目標組織図と今回の人事組織図を見比べながら、個人個人の異動の趣旨・目的、各部署からの異動に対する要望、自己申告書の希望などの説明を聞き、ひとつ一つ検討していった。

どうしても組織にはめ込むことができない人物が存在する場合には別途検討をしていく。埋まらない職位は採用部へ中間採用またはスカウトの指示をし、欠落する職位については、能力開発部へ育成の指示をすることになる。

組織人事は「薬と薬の調合」に似ている

これが毎年2回の人事異動の業務である。

なかにはいわゆる「玉突き人事」で、いい加減に「エイヤ!」と人物名を入れたりする。すると、小嶋はすぐに「これはなんや!」と言って見つけてしまう。まったく油断も隙もない。

「どのような効果をねらって、どのような組み合わせにするかは、薬と薬の調合に似ている。毒も調合の仕方によっては薬剤としての効果を生むといったことが多い」

組織は人間と仕事の組み合わせである。会社を大きく見せるための「枠」として兼任社員を増やすのでは全く意味がない。また、流行り廃りの職位やトップの思い付きや好き嫌いであってもならない。

「構成員が120%能力を発揮させる」、「長所を生かす」という原則をしっかりとしたうえで、組織の運用に適切な人材を配し、全力を傾注する。そうでなければ、組織はまったく意味をなさないとさえ言える。