新入社員教育で「就業規則」を読む理由

東海友和『イオンを創った女 評伝小嶋千鶴子』(プレジデント社)

では、組織としての行動規範はどう教えるべきか。

ジャスコでは就業規則を組織運営のツールとして使っていた。そう言うと一様に驚かれる。「就業規則というと労働基準法で定められたあのことですか?」というようにである。それも新入社員教育の教材として全員に配布するのである。

「私は就業規則を労基法の絶対記載事項だけではなく、むしろ組織運用の一環として捉えている。したがって新入社員教育にはこの就業規則教育が重要と考えている」

なぜなら、就業規則は会社と従業員との契約である。したがって組織人としての行動規範、すべきこと、してはならないこと、心がけなければならない約束事がここにある。だから新入社員教育の際に就業規則を徹底して学び、この遵守を社員に求めるのである。

例えば、命令系統の統一というような項目がある。そこには、「あなたを命令する人はただ一人であり、他人からの命令や指示は、助言提案と理解しなさい」とある。

これは従業員を動かすための「ハード」である。そして、この「ハード」を知ることで、個人の行動を規制誘導すること、即ち「ソフト」を動かすことができるのである。

従業員の意識を変えるなら「ルール」を変えればよい

「企業の社会的意義とか倫理といった抽象的なものでも、これをきちんと行動レベルで実現していくには、それに関わる制度を確立しなくてはならない。制度として具体的な方法を明示し、手続きとルールが明文化されて初めて行動に結びつくのである」

組織運営上には、数々の制度やルールが存在し、会社の風土を醸成している。業界には業界としての暗黙のルールもあり、会社にはその会社の独自のルールが存在する。この制度やルールが、従業員の意識や行動をつくっていくのであるが、それが明文化されていなければ、行動には結びつかない。

一方で、従業員の意識や行動を変えたいなら、制度やルールを変え、明文化し、それを教え、遵守させればよいということだ。

制度やルールは保守的順守的性格を有しながら、時に応じて変えていく必要がある。でないと時代遅れになり、ルールは守りましたが、会社はダメになりましたということになる。

この保守と革新の要素を合わせもつ巧妙な設計が必要なのである。変化を予見して先手を打っていく。組織が有効に機能するためには、後追いの法律とは全く異なった手法の厳しさが必要なのである。