食品ロスが発生する経済的メカニズム

近年、食べられずに捨てられてしまう食品、いわゆる「食品ロス」への関心が高まっています。日本でも2019年10月1日から、「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行されました。メディアでは、栄養不足で苦しむ人々がこの地球上に10億人もいる中で、まだ食べられる食品を廃棄するなんてとんでもないといった道義的観点からの議論が中心で、一般の方々の関心もそこに集中しているように思われます。

とはいえ、実際に食品ロスが発生するメカニズムは、単に食品流通にかかわる人々の道義的怠慢で片付けられないほど、複雑かつ錯綜しています。その仕組みを丁寧に調査・分析してみると、食品のサプライチェーンを構成する食品メーカー、卸売業者、小売業者や外食産業のそれぞれが、消費者の要望に応えつつ相応の経営努力を行うプロセスの中で、恒常的に食品の廃棄が起きてしまう状況が見えてくるのです。

サプライチェーンの中で食品ロスが発生する根本的な原因は、各プレーヤーが「リスクを回避する行動」をとることです。そのリスクは、大きく分けて3つあります。1つ目は、店頭に商品が並ばない欠品により販売機会を失う「在庫リスク」。2つ目は、見切り販売を繰り返すことで値下げが常態化する「価格リスク」。そして、いわゆる「賞味期限」や「消費期限」にかかわる「鮮度リスク」です。