このような状況は、輸入も含め食料品の生産力が向上した現代ならではのものといえるかもしれません。経済学の「需要と供給」の均衡理論は、比較的少ないモノを無駄なくみんなで分け合う状況のもとでは有効なツールでしたが、モノの過剰性と向き合う現代においては、うまく当てはまらない場面も出てきました。

多種の商品が棚いっぱいに並ぶ店で買い物をすると満たされるとか、チラシに載っていた商品を買えてうれしいといった「コト消費」的な楽しみを、現代の消費者は日々の買い物の中に求めています。そして売る側も、そうした欲求に応えることで実際の商品の購買をうながしています。「消費者は神様です」というマーケットインな方向で最適化が進められた結果、日本の食品のサプライチェーンでは、過剰在庫と大量廃棄を伴う「均衡状態」が成立してしまっているのです。

高品質の商品は、簡単に捨てられない

こうした状況の中、食品ロスを減らすにはどんな手を打てばよいのでしょうか。すでに一部の大手スーパーや地方自治体が、アメリカ並みの「2分の1ルール」を導入するなど、サプライチェーン内でのリスク低減に取り組む動きも出ています。しかし最も必要とされているのは「ゲームチェンジ」。ルールを変えることだと私は考えます。

具体的には、マーケットに合わせるのではなく供給側から働きかける「プロダクトアウト」によって、これまで「神様」だった消費者をサプライチェーンの努力に巻き込んでいく。つまり消費者を単に商品を消費する存在としてではなく、市場で共に価値を創造する「価値共創」プロセスのパートナーとして位置づけるという方向性です。

たとえば、廃棄費用を上乗せされた価格で消費者はモノを買っている、という話をすると、それなら多少欠品しても安いほうがいいという人は必ずいます。ドリンク類や菓子類など、製造日が多少前後しても品質に差がない商品もありますから、賞味期限についてもう少し柔軟な考え方を提案していくのもいいでしょう。

多少見た目が悪い野菜や果物も消費者が買ってくれれば、規格外として捨てられる分は減り、それを見越して余分に作付けをしている日本の農業の生産性向上にも役立つかもしれません。余った食品を生活に苦しんでいる人に活用してもらうフードバンクにしても、エコだとか社会的というより、「楽しく美味しいものをみんなで共有しよう」というマーケティングをすれば、より参加してくれる人が増えると思います。