※本稿は、村山秀太郎監修『2時間 de 資源史』(秀和システム新社)の一部を再編集したものです。
石炭の時代は終わったはずが…
20世紀に入ると、主役の座は新たなエネルギー源「石油」へと移っていきます。石炭は、公害の象徴、古い産業の遺物と見なされるようになり、特に21世紀に入ってからは地球温暖化の最大の元凶として、世界的な「脱炭素」の流れの中で、真っ先に排除されるべき存在とされてきました。
「石炭の時代は終わった」。誰もがそう信じていました。ヨーロッパ諸国は次々と炭鉱を閉鎖し、石炭火力発電所を廃止する計画を立てました。
しかし、現実はどうでしょうか。2020年代に入り、私たちは驚くべき光景を目の当たりにしています。石炭の消費量は過去最高レベルで高止まりし、その価格は地政学的な動乱のたびに激しく高騰する。そして、その「黒い石」をめぐって、国家間の熾烈な争奪戦や、むき出しの戦略が展開されています。
なぜ「終わったはずの燃料」が、今ふたたび世界の地政学の最前線に躍り出ているのでしょうか。本稿では「脱炭素」という理想と「エネルギー安全保障」という現実が激突する、現代の石炭をめぐる地政学的な争いを読み解いていきます。
世界最大の生産国であり消費国でもある
19世紀の「世界の工場」がイギリスであったなら、20世紀末から21世紀にかけて、その称号を引き継いだのは間違いなく中国です。
1970年代末の改革開放以降、中国は「世界の工場」として凄まじい経済成長を遂げました。その成長の原動力、電力の源は、一貫して「石炭」でした。中国は、世界最大の石炭生産国であり、同時に世界最大の石炭消費国です。その消費量は、世界の石炭消費量全体の約半分(!)を占めるほど突出しています。
この「石炭依存」こそが、現代中国の最大の強みであり、同時に最大のアキレス腱、すなわち「ジレンマ」となっています。

