死ぬのが怖くて仕方がない

人間は年齢を重ねるにつれ死が近づいてきます。そして親族や友人の死に直面し、「明日はわが身か」と恐れおののいたり、「まだ死にたくない」とあがいたりする人が、少なくないのも現実のようです。

ダンテ 著、平川祐弘 訳●詩人ウェルギリウスの案内で地獄と煉獄を巡る著者。その後、天国に至るなかで、善悪とは何かを捉えていく。ルネサンスの先駆けとなった書。(河出書房新社)

僕にいわせれば、死について悩むことなど時間の無駄です。「人間は何人たりとも、死から逃れることはできない」という、厳然たるファクト(事実)があるからです。それよりも、読みたかった本を読んだり、行きたかった場所に旅したりしたほうが、楽しく人生をすごせます。

とはいえ、「どうしても死に対する不安や恐怖が頭から離れない」という人もいるでしょう。そうした人には、中世イタリアを代表する詩人、ダンテが著した『神曲』を読んでみることをおすすめします。

神曲は、叙事詩形式の長編の物語で、ダンテ自身が主人公です。最愛の女性だったベアトリーチェを亡くして現世に絶望し、森のなかをさ迷っていたダンテの前に、古代ローマの高名な詩人、ウェルギリウスが現れます。ダンテの荒んだ姿に心を痛めた天上のベアトリーチェが、ダンテを立ち直らせるため、ウェルギリウスの魂に頼んで、ダンテに死後の世界を見せることにしたのです。