親の存在がうっとうしい

中高年世代にとって、親との関係は切実な問題です。最大の懸案は介護でしょう。正直、老親の存在を負担に感じたり、うとましく思うこともあると思います。そうした悩みに対して、私はあえて「それでいいんですよ」と肯定的に助言したいと思います。現実問題として「人生100年時代」といわれるいま、100歳の親を80歳の子どもが面倒を見ることは不可能です。

エリック・ホッファー 著、中本義彦 訳●港湾労働の傍ら図書館に通い、独学で哲学者を目指した著者。「沖仲仕の哲学者」の名声を受けるまでの人生を振り返る。(作品社)

そこで大切なのが発想の転換で、そのための多くのヒントが得られるのが、『エリック・ホッファー自伝』です。著者のエリック・ホッファーは米国の哲学者で、生涯自由を追い求め、多くを背負い込まず、自分を愛する生き方を貫いた人です。世間の軸ではなく、自分の軸で幸福を追求しました。それは彼の生い立ちと深く関係していることが本書に示されています。

ドイツ系移民の子として米ニューヨークに生まれたホッファーは、7歳で母親と死別するとともに失明します。15歳で奇跡的に視力が回復。以来、貪るように読書に励みました。しかし、正規の学校教育は受けていません。18歳の頃に父親が他界、天涯孤独の身となります。ロサンゼルスの貧民窟で暮らし、28歳のときに自殺を試みて未遂に終わります。

その後はカリフォルニアで季節労働者として農園を渡り歩く傍ら、図書館へ通い独学。長年サンフランシスコの港湾で沖仲仕として働き、「沖仲仕の哲学者」とも呼ばれています。後年、カリフォルニア大学バークレー校で教鞭も執りますが、65歳まで沖仲仕の仕事はやめず、港湾労働者の労働組合幹部も長く続けました。また、女性から好意を寄せられても独身を貫きました。