独自性を与える弱者の役割
彼は世間的な成功や幸せには背を向け、自分を愛する生き方を通します。彼にとって自分を愛するとは、自由であることでした。読書や執筆の時間があれば、それ以外は普通の生活ができるだけのお金と健康、それだけで十分とします。長く不幸のどん底にいたことで、何が自分にとって真の幸せなのかを知り、多くを求めなかったのです。
ただし、彼が追求した自由な生き方は、決してネガティブな意味での、わがままな自由ではありません。彼はずっと弱者の味方、大衆の味方でした。本書で彼は、「弱者が演じる特異な役割こそが、人類に独自性を与えているのだ」と述べています。人の弱さは肯定されるべきものです。実際、人の弱さが世の中をよくしている側面があります。強い人ばかりの社会は息苦しくて生きにくいものです。
ホッファーがいうように、自分の弱い部分をネガティブにとらえる必要はありません。親の介護も、すべてを背負い込まないことです。いまの時代、さまざまな介護サービスが利用できます。自分が苦しければ、ほかの方法を探せばいい。日本人は自分を犠牲にしてしまいがちで、またそれが美徳のように考えられています。それでがんばりすぎて、潰れてしまう人が少なくありません。そうなれば親も不幸です。自分の幸せを優先し、できる範囲でやる。もう少し気楽な生き方をホッファーにならってはどうでしょう。
(構成=田之上 信)