覚 和歌子
山梨県生まれ。詩人、作詞家。大学を卒業し作詞家デビュー。Jポップからジャズ、クラシックまで数百編の日本語詞を発表。落語とのバトルライブ「噺詩の会」や自作詩朗読パフォーマンスを国内外で行う。映画『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつも何度でも」の作詞で2001年度のレコード大賞金賞受賞。『崖の上のポニョ』主題歌原作詞。最近の作品はCD絵本『星つむぎの歌』(文と朗読。絵は大野舞さん)、人気舞台のテーマチューン「届かなかったラブレター」(歌・クミコ)が好評。
「詩は沈黙に憧れる」。谷川俊太郎さんの言葉です。
言いたいこと、伝えたいことに詩人は言葉を尽くすわけですが、本当に大事なことは目には見えないもので、言葉で表現できないことのほうが多い。周りを言葉で埋めていき、見えない“何か”を浮き上がらせていく。それが詩なのだと。
20代までは、頭で文章を書くようなところがありました。でも、論理的で明晰な文章を書いたとしても、人の心に伝わるとは限りません。どう言葉を選び、組み合わせ、並べるか。同じ意味でも伝わる質が違ってきます。感性を豊かにするためには、内面の熟成や身体の裏付けがないといけません。自然と食べる物に興味がわいてきます。
良質な食べ物とはなんでしょう。生産者が無農薬、無添加で作った食材を使って、愛情を持った料理人が作ることだと思います。気の入ったものを食べると、エネルギーが循環していくことがわかってきますよ。
エネルギーを摂り入れたら、それを人にお返ししたくなる。自分ができることで世の中のために役立ちたい、と思うようになります。自分には文章を書くことしかない。そう考えると、とたんに書き始められます。人間って、自分のためだけでは何もできないんですね。
「いつも何度でも」(映画『千と千尋の神隠し』の主題歌)の作曲者、木村弓さんとは同じ身体術の稽古仲間です。共通の身体感覚の中から、あの曲ができました。
さよならのときの 静かな胸
ゼロになるからだが 耳をすませる
生きている不思議
死んでいく不思議
花も風も街も みんなおなじ
これは、『千と千尋』の前に『煙突描きのリン』という映画の企画がありまして、プロットに合わせて書いた詩なんです。地震で廃墟となった町に唯一残った銭湯の煙突に、美大生が絵を描く。その女の子が屋根の上で口ずさむという設定でした。残念ながら企画は流れてしまった。
でも、スタジオジブリの宮崎駿さんから新しい映画に曲を使いたいと話があり、ああいう形で世に出ることになったのです。
木村さんも私も体力がないので、いつもぎりぎりのところで作詞作曲して歌いました。なんとかして聞き手を元気にしたい。そんな気持ちが宮崎さんに伝わり、作品世界と溶け合って多くの人に受け入れられたのでしょう。この曲は息が続きにくいところがありますが、子供たちは気にせずに歌ってくれているようです。
「世の中のために何かを」ということを、宮崎さんとはお話ししたことはありません。それでも、ジブリ作品は世界的な状況に対する問題意識の深め方など、どこか私の詩と共振しているように思えます。