金平桂一郎
東京都生まれ。プロボクシング・プロモーター。協栄ボクシングジム会長。前協栄ボクシングジム会長・金平正紀の長男として、多くの世界チャンピオンに接しながらプロボクシングに親しむ。高校卒業後、1990年にロシアのレスガフト記念体育大学(サンクトペテルブルク市)へ留学。99年3月実父正紀の逝去に伴い、協栄ボクシングジム会長に就任した。2006年から07年にかけて胃潰瘍を患い、大好きな酒をやめる。体重は87kgから65kgまでに激減し、現在に至っている。
「高いもの、うまそうなものは隠れて食べろ」
学生時代に父親からそう言われました。今までこっそり食べていたんですが、ご覧のとおり雑誌に出てしまった(笑)。この言葉には「自分で稼げるようになるまでは」という真意があります。世界王者を擁するジムの息子が贅沢をしていたら世間から反感を買うでしょう。「食べるな」ではなく「隠れて食べろ」というところが面白いでしょう。気を配れ、ということです。周囲がどう感じるか、父親は人々の気持ちを常に考えていた根っからの興行師でした。
赤ワインはラムのローストに合いそうで美味しそうでしょう。ですが、これは飾り。残念ながら口をつけていません。2年半前から断酒しているんです。
それまでの大酒が祟り、ドクターストップ。おかげで胃や肝臓の具合は回復しましたが、そのまま酒を断ちました。強い理由はありません。お酒は大好きで、今は休憩中といったところでしょうか。
ですから飲み物はワインの横にある水です。その代わり、「この料理にはあのワインかな」などと想像します。最高の焼き加減のラムを食べ、頭の中で赤ワインを一口。「さぞやうまいだろうな」と。想像力を駆使するのは結構楽しいことで、むしろ実際に飲むよりも奥が深いかもしれません。負け惜しみではなく(笑)。
食事にはもてなしの心が絶対に必要です。学生時代に旧ソ連に留学したとき、料理がまずくて閉口しました。なにをどこで食べても同じようにまずい。サービスも悪い。いかに客を喜ばせるか、という気持ちがない。それでウオツカばかりを飲み、大酒飲みになってしまったのです。
しかし、留学のおかげでエンターテインメントの要諦を学べたともいえます。いかにお客さんを楽しませるか。リングでのボクサーは必死で闘うだけの存在のように見えますが、「いいファイトでお客さんを沸かせてやる」という気持ちが大事なんですね。
いいボクサーにはもてなしの心があります。強い選手ほど食事にもうるさい。減量が付きもので食事についてはあきらめている部分がありそうに思えるかもしれませんが、彼らは食べる楽しみを知っています。減量期以外はうまいものをしっかりと食べて体をつくります。メリハリですね。
メリハリといえば、酒もやめっぱなしではなく、いつかは再開しますよ。いつかはわかりません。新たに世界チャンピオンを育てたときに泡盛の古酒の瓶を開けようかとか、あるいはさり気なく、この店で赤ワインをいただこうとか。そういう想像もまた楽しいものです。