あえていいます。人は叱るのでなく、褒めて育てるべきです。褒めることで、自発的に仕事をするように仕向けるのです。ただ、どこかで叱るという行為を差し挟まないと、方向性を定めることができません。叱ることで、あんたの範囲はここからここまでだよ、ということをわからせるのです。
「叱る」という行為は、最も難しいコミュニケーションの一つです。核家族化が進み、子供の数が減り、社会に揉まれていない人が増えています。家族が少ないのでお爺ちゃんやお婆ちゃん、お兄さん、お姉さんとのコミュニケーションが取れていない。そのせいか、うちの若い子(従業員)を見ていても、部下を叱るのが下手ですね。
ぴしりと叱る前に「こんな叱り方をしたらリーダーとして嫌われてしまうんじゃないか」と不安になる。それを含めて、叱る前にいろいろと考えすぎてしまうのではないかと思います。
一方で、いまの子は叱られることにも慣れていません。「ごめんなさい」と言えない子が多いんです。謝るところから次の自分のステップが始まるのに、ごめんなさいを言わずに自分を守ろうとするから、次のステップに移れない。その意味で、彼らは損をしていると思いますよ。会社にとっても大きなマイナスです。
――サービス業は「人材教育がすべて」といわれる。渡邉美樹氏は徒手空拳から居酒屋経営を始め、従業員4000人のワタミグループを築き上げた。最も重要な「叱る」局面では、どのような極意を発揮したのか。
僕は叱ることについて2つの原則を持っています。1つは「心のままに」。その場できちんと、思ったことを表現するということです。
もう1つは「冷静に」。感情で怒ることはありません。「この人、感情で言っているだけじゃん」と思えば、相手は心の扉を閉ざしてしまいます。だから叱る理由をきちんと伝えるのです。
これらは矛盾しているようですが、この2つを同時に満たさなければ、叱ることはできないと思います。