――たとえば渡邉氏は、部下を叱責するときに「飛び降りろ!」などの激烈な言葉を使うが、「辞めろ」という一言だけは封印しているという。
創業から26年間、部下に対して「辞めろ」と言ったことは1回もありません。僕は社員が好きだから、絶対に辞めてほしくないんです。叱るときにも、根底にあるのは「好き」という感情で、好きでなければ叱る資格はないんです。
もちろん、ダメなところのある社員はいます。でも、全部ダメなやつなんて一人もいません。ある人が何度叱っても同じ失敗を繰り返したとしますよね。そういうときは、いまの仕事に向いていないのだから職場を変えればいいんです。その人のいいところを見つけてあげ、実力を発揮できるようなポジションを提供することは、経営者の仕事ですよ。
――しかし、その認識に至るまでには失敗も数多く経験した。もともと創業経営者は火の玉のような激しさを持っている。ある外食産業経営者は「創業のころは仲間や部下に鉄拳を見舞っていたよ」と述懐するが、渡邉氏にも次のような時期があったという。
2号店のアルバイトとして雇った部下がいましてね。あのころは僕、そいつの頭を何度もスリッパでひっぱたいていました。それでも十数年はついてきてくれましたが、8年ほど前に辞表を出したんです。追い込まれて、潰れたわけです。その後は海外で居酒屋をやっていたと聞きました。
ところが先月(7月)になって、その彼がうちに戻ってきたんです。辞めたときは部長でしたが、今度はヒラ社員として、グループで配送の仕事から始めてもらっています。いまは45~46歳でしょうか。もう一度挑戦したい、定年退職までここで働きたいというんですね。
一度は追い込んで潰してしまった男です。でも彼は、僕の言動の裏側に愛情を感じていたから戻ってきた。その意味で、僕の叱り方は間違っていなかったと思います。
(プレジデント編集部 面澤淳市=構成・文 市来朋久=撮影)