アイウィル代表取締役 染谷和巳
1941年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)卒業。出版社・社員教育機関勤務を経て88年から現職。部下の指導法など幹部教育の第一人者として活躍中。

ガツンと叱ることのできる上司はどんどん減っています。絶滅しかけていると言ってもいい。それはなぜか。

人を叱るには多大なエネルギーを使います。たとえば、やっちゃいけないことをしている人間に「そんなことはするな!」と言いますね。これは相手を否定することです。プライドや心を傷つけます。だから相手は、言ってくれた人間を憎みます。嫌います。最悪の場合は殺したいと思う。それを感じるから、上司は叱ることを躊躇します。

煎じ詰めれば、心の弱さです。また、いまどきの上司たちが受けてきた学校教育のあり方も問題です。先生の言うことを真に受ければ、叱ってはいけないことになる。家庭教育でも、子どもを叱るときに殴ってはいけないことになっています。殴られず、叱られず。そうやって育ってきた人が叱る側にまわっても、叱れるわけはないですよ。

叱ることができないから「話し合いましょう」「よく説得して」と別の手段を持ち出すことになるわけです。しかし、叱ることと話し合うことや説得することは、まったく違います。叱るというのは最後の手段です。その前に、「教える」「注意をする」というステップを踏んでいます。

そのうえで、部下が何回注意をされても直さない。たとえば、いくら言っても遅刻を繰り返す。そういうときに、上司は頭にくるわけです。感情を込めて「何やってるんだ、おまえ!」と怒るのです。

本当はそうすることが自然です。なのに、部下との間に敵対関係ができるのを恐れるから、大半の上司はぐっと我慢をしてしまいます。叱らないで済まそうとするのです。

しかしどうでしょう。叱らないで済むこともありますが、済まないことのほうが多いと思います。たとえば、お客様がいらしても挨拶しない社員がいるとします。もちろん教えますし、注意もします。しかしそれでも、お客さんに対して知らん顔をしている社員がいたら、私なら真っ赤になって怒鳴りつけますね。

そうすると、その社員は直るんですよ。その代わり、私のことを憎むでしょう。恨んで復讐しようとするでしょう。しかし、それはしょうがないことなんです。上司というのはそういう役割なんですよ。

叱るのは瞬間的な判断です。その場の行為を見て、「このやろう」と思ったときに叱るのです。タイミングを失ったら叱る効果がなくなります。

しかも、人前で叱るべきだと思います。そうすることで周囲の人間にもびーんと響きます。次の日、応接間に呼んで叱っても意味はありません。

翌日になれば、叱られるほうも落ち着いてきますから、必ず言い訳が出てきます。「それはそういう意味でやったんじゃありません」と言われると、たしかに一理はあるので上司もつい納得してしまう。場合によっては「そうだったのか、俺が悪かったな」と逆に謝ったりするわけです。叱るにもタイミングが大事なのです。