毎年春の入社式。私が短い講話をしたあと、質問コーナーを設けます。そのとき、真っ先に「はいっ!」と手を挙げて質問をぶつけてくる新入社員がいます。

「会長、これについてはどうお考えでしょうか?」

若者らしく元気いっぱい。ハッスルしている様子がありありと見てとれます。ところが、経験からいうと、そういうタイプの社員はまず伸びません。いまも何人かの顔が浮かんできますが、残念ながら、そのうちかなりの者がワタミを去っています。結局、彼らがひけらかす「元気」は、内実をともなわない虚勢なのです。

心の底から「ぜひ聞いておきたい」ということがあるならいいのですが、たいていの場合はそうではなく、元気よく質問している自分を周囲に見せたいだけなのです。それは質問の中身を聞いていればわかります。

そういう人はプライドが高く、自分を実際以上に評価しがちです。しかし、現実の仕事は地道な努力の積み重ねですから、どうしても自己評価とのずれが生じます。

すると「この会社は自分をちゃんと評価していない」と決めつけ、簡単に辞表を出してしまいます。このように、頭の回転が速く敏感に行動する人は、目先の損得に左右され、せっかくの成長の機会から降りてしまうことがあるのです。

逆に、長い目で見たら伸びるのが「鈍くさい」人です。

「鈍」といっても、決して賢くないわけではありません。あざとい動きをせず、最初は損に見えることでも「とりあえず全力で取り組んでみよう」と思うことのできる健やかさを持っているのです。

「静かに、健やかに、遠くまで行く奴が勝つ」

こう僕は信じています。

なぜなら農業や介護、外食といった我々のビジネスは、長距離レースだと思うからです。短い区間だけで目立つのではなく、毎日毎日の積み重ねを、しっかりとやり続けられる人が成長します。いつも変わらない笑顔で、変わらない態度で、歩き続けられる人が勝つのです。

「学んでそれを行動に移さなければ、学んだことにはならない」

僕の好きな『論語』には、このような意味の教えが繰り返し出てきます。他人の知識を自分の知識のように口にする人は、「実」がない人だといわれます。下手に口が達者な者は信用されません。