昨今、「墓じまい」が話題になるなど、先祖供養は簡素化しつつある。だが今どきの大学生はそうでもないようだ。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「東京農大の授業で聞いたところ、大学生の98%が『年1回以上墓参りする』、64%が『一族の墓を守っていきたい』と答えた。親世代より先祖供養を重んじる傾向がありそうだ」という——。
筆者が東京農業大学で講義をする風景
撮影=鵜飼秀徳
筆者が東京農業大学で講義をする風景。

意外すぎる20歳前後の大学生の宗教観と葬送意識

東京農業大学(東京都世田谷区)で週に1コマ、宗教学の講義を受け持っている。農業と仏教との関連性はあまりなさそうに思えるが、さにあらず。日本では古くから、仏教と農とは切っても切り離せない関係にある。

6世紀に日本に伝わった仏教はこれまで、農業の発展に寄与してきた。中国へ渡った留学僧たちが農耕技術を学び、あるいは、中国から僧侶がやってきて日本に農作物の種などを広めた。

たとえば、遣唐使であった最澄(天台宗の開祖)は茶の種を日本に持って帰り、比叡山のふもとの近江坂本の地に植えたことで知られている。また、弘法大師・空海(真言宗の開祖)は9世紀、朝廷から讃岐に派遣されて、当時決壊に悩まされていた満濃池(まんのういけ)を修築した。満濃池は日本最大の農業用ため池であり、いまでも、田畑を潤す貴重な水源になっている。

あるいは「インゲン豆」はその名の通り、黄檗宗の開祖・隠元隆琦(いんげんりゅうき)に由来する。隠元はほかにも、レンコンやスイカを日本に伝えたと言われている。

履修生のなかには、造園や地域創成を専門にする学生もいる。造園においては、寺院とは関係が深い。地域創成の観点だと、寺院は農村のコミュニティの紐帯として機能を果たしてきた。農業大学の学生が日本の仏教のことを学び、教養を深めることはとても大事なことなのである。

さて、授業では、さまざまなアンケート調査を実施している。

内容は、学生の宗教観や葬送意識についてである。2018年と2019年の2年間、同じ質問項目で調査を実施(履修生合計684人)し、統計を取った。20歳前後に特化したこの手の調査はほとんど存在しないので、貴重なデータと言えるだろう。