「通夜・告別式は近親者のみで行います」という文言の背景
あなたは最近、勤務する会社の上司、もしくは同僚の親の葬式に出席したことがあるだろうか。
中堅以上の社員であれば、若手の時代に上司の親の訃報を受ければ、受付などの手伝いをしたことがあるのではないか。かくいう私もかつて、上司の葬式に何度か参列し、普段は厳格な上司が涙を見せたり、家族を紹介してくれたりして、「部長も人間らしいところがあるんだな」などと驚いたものだ。
しかし、ここ数年はどうだろう。特に東京で働く会社員は、会社がらみの葬式に出たことが、とんとなくなったのではないか。会社の掲示板の訃報通知には、昨今、決まってこんな文言がさらりと添えてある。
こう書かれていれば喪主が、参列者を集めない「家族葬(密葬)」もしくは、葬式を実施しない「直葬」のいずれかを選択したことを意味している。
国会議員や大企業のトップさえも葬式をやらなくなった
私は1年前、東京都千代田区にある大企業(連結社員数約5500人)の3年間の訃報通知をカウントし、解析した。すると、約95%が「家族葬」か「直葬」であった。たしかに、私が現役時代に葬式に参加した最後は2006年頃だったように思う。
新聞の訃報欄にも変化がある。やはり、「通夜」および「葬儀・告別式」の日取りや場所が書かれておらず、かわりに「告別式は近親者で行う」との文言が添えられているのだ。
大手紙の訃報欄に掲載される故人は、国会議員や文化人、大企業のトップなどを経験した著名人である。「公人」ですら、会葬者を集めた葬式をやらないようになっているのだ。支援者が多数存在する政治家までもが、いまでは葬式をやらない。
2018年1月、「影の総理」と言われた元官房長官の野中広務さんが亡くなった。私も政治記者時代、野中さんにはお世話になっていたので葬式に参列したかったが、家族葬であった。3カ月後、「お別れの会」が開かれ、そちらに出席した。