日本の土の良さを引き出して、日本らしさを求める

——国産のワインは甘い、というイメージも強くありましたよね。

明治から昭和中期にかけて長野県塩尻市の桔梗ヶ原地区は、甘味果実酒用ブドウ品種であるコンコードやナイアガラの一大産地でしたが、ここで本格的な赤ワインを造るために欧州系ブドウ品種の改植にあたって成功したのが、当社の工場長も務めた浅井昭吾さんでした。

彼はメルローに絞った改植を決断して、1989年の「リュブリアーナ国際ワインコンクール」で金賞を受賞するなど世界的に日本ワインを印象づけるきっかけとなった「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー」を産みだしています。

撮影=門間新弥
メルシャンの長林道生社長

同じブドウ品種でも、フランスのマネをするのではなくて、日本の土壌から出てくる良さを引き出して日本らしさを求めることが、世界で日本ワインが評価されることにつながるというのが彼の持論でした。しかも浅井さんは、シャトー・メルシャンが培った醸造やブドウ栽培の技術を独占するのではなく、メルシャン以外のメーカーにも広めました。

それで彼は「現代日本ワインの父」と呼ばれるようになるのですが、彼の存在も日本ワインにとってのブレークスルーになったと思います。

——ワインの味を言葉で表現するのは難しいと思うのですが、「日本らしさ」はどう表現すればいいのでしょうか。

繊細さ、優雅さ、上品さ、でしょうか。それをブドウ栽培だけでなく、優しく丁寧な醸造によるワイン造りで実現できていると思います。