アジアの都市を旅すると、どの国にいるのか分からなくなることがある。経営コンサルタントの鈴木貴博氏は「どの街にも似たようなモールと店しかないからだ。一方、東京には個性的な街が多く、それが訪日客を引きつけている。この点を意識せずに大型開発をしても、失敗するだけだろう」という――。
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無個性化が進むアジアの都市

仕事柄、アジアの各都市に出かける機会が多々あります。そこで最近、ちょっと気になっていることがあります。それはアジアの都市の“無個性化”が進んでいることです。

朝、ホテルの部屋で目を覚まし、「あれ、今どこに来ているのだっけ?」とぼやけた頭で窓の外を見回してみても、すぐには思い出せないことが珍しくありません。「バンコクだっけ? 上海だっけ?」という具合です。歳のせいもあるのかもしれませんが、それだけではなく、都市の風景のせいなのではないかと感じてならないのです。

もちろん、街歩きをしながらディープなエリアに入り込んで行くと、どの国にも昔ながらの暮らしがあり、独特の文化とそれに染まった街並みが見られます。しかし、私がいつも滞在拠点にしている街の中心部と、その周辺に広がる商業地に関していえば、急速に個性が失われているように見えるのです。

ちなみにアメリカ資本のグローバルホテルチェーンが、世界のどこへ行っても同じような部屋で統一されているのは、「アメリカ人が自宅にいるように落ち着いて過ごせるから」という理由なのだそう。もしかするとこの考え方が、ホテルを出てもそこが外国である感じがしないという、新しい都市現象に通じているのかもしれません。

ZARA、H&M、ユニクロのお決まりの風景

アジアの都市の繁華街には近代的なビル群が広がり、たいていターミナル駅を中心に立体歩道でつながっています。どのビルにも壁面全体を覆うほどの巨大なデジタルサイネージが設置され、様々な製品やブランドの広告動画が踊っています。

さらに巨大商業施設の中には、海外ブランドに加え、必ずといっていいほど、ZARAやH&M、ユニクロが入居しています。どこの都市に行っても同じ光景で、どこでも同じブランド商品が手に入る。違うのは人々が話す言語と通貨単位だけという同質化が進んでいます。それはあたかも新興国の富裕層が憧れる町並みを、そのまま各都市に具現化したかのようです。

その点で比較すると、東京の街はなかなかに個性的です。確かに渋谷にも新宿にも池袋にも、ZARAやH&M、ユニクロはありますが、アジアと違って街並みの個性は維持されています。

たとえば渋谷は若者的で熱気があり、新宿はクールである反面どこか殺伐とし、池袋は家族的な安心感がある。ちなみに私が居心地のよさを感じるのは新宿で、恵比寿や六本木などに出掛けると、なんとなくアウェー感をおぼえます。誰しもきっと、こうした合う、合わないの印象を街ごとに抱いているはずです。これも東京の街に強い個性があればこそです。