郊外のイオンには、ミスタードーナツと丸亀正麺
アジアの都市がどこも同じだというのは、決して感覚的なものではありません。経済学的な事情に基づく、明確な街の個性の違いで、実は日本中の中核都市においても同様の無個性化が進んでいます。
地域の商店街がさびれる一方で、郊外のイオンモールに人が集まる。そこにはユニクロがあり、ニトリがあり、ダイソーがあり、マクドナルドがあり、ミスタードーナツがあり、丸亀製麺がある。新興国の人々が憧れる街が世界中に出現しているのと同じで、地方都市の住民にとって居心地がいい、先進的な商業施設が日本中の中核都市に出現しているわけです。
ただし、そのような先進的な商業施設でも、手に入りにくいものがあります。それは地場産品です。たとえば私の地元の愛知県は日本一のえびせんべいの産地で、昔は菓子屋に行けば様々なえびせんを買うことができました。私が好きなアーモンド入りえびせんも、以前ならどこのスーパーでも購入できたものです。
現在は、愛知県内のスーパーに行くと、せんべいやおかきの棚はナショナルブランドの商品で埋め尽くされ、地元のえびせんは売れ筋のものがいくつか置かれている程度。需要の少ないアーモンドえびせんは、スーパーを何軒も回らなければ発見することはできません。
地方都市が同質化していくメカニズム
このような現象は、2つの経済原理に起因します。まず1つめは、マーチャンダイズの規模の問題。わかりやすく言えばチェーン店が一般商店を駆逐してしまうのです。
30年前は日本中のどの街にも地元の小売店や飲食店があり、存続できていました。それが物流の進化、チェーンシステムの生産性向上、仕入れのグローバル化などいくつかの要因が重なり、チェーン店の優位性が強まりました。
昭和の時代には大規模小売店の優位が経済問題になりましたが、平成の30年間では大規模チェーン店の優位が進み、これが小規模小売店との決定的なコスト格差を生みました。その結果、チェーン店が日本中の都市に広がっていき、日本全国に画一的な店舗風景が広がることになったのです。
しかし、ここに2つめの経済要因が加わることで、東京と地方都市の間に発展の違いが起きることになります。それが顧客セグメントの規模の効果という要因です。
地方都市を活性化させようとする場合の着眼点として、都会的な遊び場を繁華街につくるという手法があります。たとえば地方都市で「クラブをつくろう」とか「火鍋専門店をはじめよう」といったアイデアが出たとします。こうした東京で流行している業態は、経営戦略でいう差異化が奏功し、一定数の需要を獲得できるもの。実際に成功事例は少なくありません。
問題はその先です。それらの業態に関心を持つ顧客セグメント規模が、東京とは違うという問題が出てくるのです。具体的には、地方都市で1店舗目が成功して同じジャンルの店舗を2店舗、3店舗と展開すると、東京のような集積が起きるのではなく、共食いが始まり、場合によっては飽きが出始めます。