京都の「町」が、外国資本の買い占めにあっている。中国の投資会社は町家が並ぶ一角を買い取り、そこを中国風の名前で再開発する計画を発表した。京都在住の東洋文化研究者アレックス・カー氏とジャーナリストの清野由美氏は「このままでは京都の最大の資産である『人々が暮らしをする町並み』が消えてしまう」と警鐘を鳴らす――。

※本稿は、アレックス・カー、清野由美『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Sean_Kuma)

外国人観光客は「効率のよい」お客さん

京都市産業観光局が2017年に調査した結果をまとめた「京都観光総合調査」によると、京都には、外国人、日本人を合わせて、年間5000万人以上の観光客が訪れています。

そのうち外国人宿泊客数は353万人で、宿泊日数をかけた延べ人数は721万人となっています。ただし、これは無許可の民泊施設への宿泊客は含みません。同調査では、無許可民泊施設での宿泊客数を、約110万人と推計しています。

観光客数に占めるインバウンドの割合は13.9%と、数では国内客に及びません。しかし、観光消費額に占める外国人消費額2632億円は全体の23.4%となっており、外国人観光客が「効率のよい」お客さんであることを示しています。

2015年に発表された『京都市宿泊施設拡充・誘致方針(仮称)』によると観光客、特に消費額が大きいインバウンド客をあてこんで、京都市は「2020年までに1万室の増加」を観光政策に掲げています。

『京都新聞』の調査では、「京都市内の宿泊施設の客室数が、15年度末からの5年間ですくなくとも4割増の約1万2000室に増える見込み」となっています(2017年12月5日)。

「簡易宿所」が3倍以上に増えた2015年

市の政策をはるかに上回るペースで客室数が増えているのは、インバウンドをあてこんだホテルや簡易宿所の開業が、予想を超えたスピードで増えているからです。

ちなみに簡易宿所とは、宿泊する場所や設備を複数の人が共同で使用する有料の宿泊施設のことで、民宿、ペンション、カプセルホテル、山小屋、ユースホステルなどが該当します。

京都市が発表した「許可施設数の推移」によれば、18年4月現在の京都市内の宿泊施設はホテルが218軒、旅館が363軒に対して、簡易宿所が2366軒と、際立って多い数となっています。

京都市における簡易宿所の新規営業数が、飛躍的に跳ね上がったのは15年で、前年の79軒から、一気に3倍以上の246軒に増えました。

これは住民が普通に暮らしていた町家を、宿泊施設に転換する動きとも連動しています。宿泊施設として新規許可を得た京町家は、14年には25軒でしたが、15年には106軒と4倍以上になりました。

なお15年は日本政府が中国に対してビザ発給条件の緩和を行った年です。その前から円安が始まり、日本に来る外国人観光客、特に中国人をはじめとするアジアからの観光客の数が爆発的に増えました。「爆買い」が流行語大賞に選ばれたのも、同じく15年です。