新型コロナウイルスの流行と訪日外国人の急増は軌を一にしている。この先、日本はどのように観光客とつきあえばいいのか。東洋文化研究者アレックス・カー氏らは「億単位で観光客が移動する時代には、観光客の量ではなく、価値を極めることが大切だ」と指摘する――。
※本稿は、アレックス・カー、清野由美『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
2018年、訪日外国人数は3119万人に達した
訪日外国人、いわゆるインバウンドの数は、2011年の622万人から右肩上がりで増加。いよいよ18年には11年の5倍となる、3119万人まで達しました。
新型コロナウイルスの流行で、その達成に暗雲が立ち込めていますが、政府の掲げる訪日外国人数4000万人達成も、東京オリンピック・パラリンピックの状況次第では夢ではないのかもしれません。そしてその増加に伴い、ここまで政府の「観光立国」の旗印のもとで、全国にインバウンド誘導ブームが起きていました。
私は80年代から観光産業の可能性を予見し、京都の町家や、地方の古民家を一棟貸しの宿泊施設に再生する事業を実践してきました。
08年には国土交通省から「VISIT JAPAN大使」の任命を受け、その趣旨の通り、外国人旅行者の受け入れ態勢に関する仕組みの構築や、外国人に対する日本の魅力の発信を行っています。
つまり、観光振興の太鼓をずっと叩き続けたといっていい。インバウンドの“促進役”という自覚は今にいたるまで変わっていません。
しかし、最近の日本は観光客が急激に増加したことにより、いたるところで「観光公害」ともいうべき現象が引き起こされるようになりました。それらの実情を見るにつれ、「観光立国」どころか、「観光亡国」の局面に入ってしまったのではないかとの強い危機感を抱くようになっています。
「観光公害」を最も顕著に見ることができるのは、日本を代表する観光都市、京都です。