親からのクレーム怖さに学校は神経を配り疲弊
また、この校長が指摘するように、この「ノーミス前提社会」において教員が毅然とした態度を取りづらくなっている背景があるように思う。
例えば、都内のある公立小学校では日常、保護者に配られるプリントにこんなことが記されているという。
「明日の持ち物は○○と○○。保護者の方も忘れ物をさせないようにチェックしてください」
この話をしてくれたのは小学3年生の子を持つ保護者A子さん(30代、美容師)だ。
「前日に息子が学校からもらってきたプリントには『明日は絵の具セット持参』と書かれていました。でも、恥ずかしながら、ウチの子は持っていくのを忘れたんです。子どもが出かけた後に気が付いたのですが、私も仕事に行く時間だったので届けられませんでした」
A子さんは自分のサポート不足を申し訳なく思ったが、帰宅後、息子に聞くと「隣の子に借りた!」と実にあっけらかんと言われ、拍子抜けしたそうだ。
A子さんは筆者にこう話す。
「困ったら、自分で解決するしかないですよね? 社会に出たら、そんなことばかりじゃないですか? いつも、完璧な準備をして出かけられるとは限りません。うっかり何か持ってくるのを忘れるなんて日常茶飯事ですよね。それに、思うんです。私の母も働いていましたが、私が小学生の頃、母が忘れ物防止に私のランドセルの中身を点検するなんてことは一度もなかったです。私も当時、忘れたら忘れたでどうにかしていたと思うんです。いつから、この国は子どもたちに失敗をさせないように、させないようにと、大人(学校)が先回りする国になったんでしょうか?」
「子どもに失敗をさせたら、それは学校が悪い」
同じようなプリントを配っているという中学校の教員に聞くと、そうした「対策」には保護者の要望が大きく絡んでいる、と次のような趣旨のことを話してくれた。
保護者は、学校でわが子が困るような状況が発生するのを回避したい。わが子が恥をかくという場面は絶対にあってはならない。そんな意識が強いため「(忘れ物に代表されるように)子どもに失敗をさせたら、それは学校が悪い」という発想になる。よって、学校側はピリピリした親からのクレームを受けぬよう事前防止策を何段階にも張り巡らすのだ。
実際、こんな対策をしている学校もある。
・保育園の連絡帳並みに毎日、保護者と教員間でメールのやり取りができる
親は子の失敗を恐れ、事前防止策を望み、学校は親からのクレームを恐れている。これはちょっと異常な世界であると思う。
長年、筆者は多くの家庭の悩み相談に乗ってきた。その経験を踏まえて言えるのは、小学生から高校生までの子どもたちには年齢に応じた「適度な心配」と「適度な干渉」は必要だということだ。しかし、過度に先取りして子どもの要求を満たすことや、先回りして心配を解消することは親の役割ではない。
親は己の心配を解消してくれる“完璧な子”を求めてはいけない。それよりも失敗を繰り返しながらも、自分の力で人生を拓いていこうとする“未熟な子”を応援しなければならないのだ。
それができた時に、初めて「いつも傷つきやすい子」から「たとえ傷ついても立ち直れる子」として、親から離れた学校生活を充実させることができるようになるのではないだろうか。