人生を左右する「大一番」がある日には、どう臨めばいいか。女子プロテニスの大坂なおみ選手を世界一に導いたコーチ、サーシャ・バインは「ルーティーンを持っているかどうか、そしてそれを普段通りできるかどうかがすべて」だという――。

※本稿は、サーシャ・バイン『心を強くする 「世界一のメンタル」50のルール』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

2018年9月8日(写真=Robert Deutsch-USA TODAY Sports/Sipa USA/時事通信フォト)

「運命の日」にすべきこと

私の頭は時速200マイルで回転していた。

土曜日の朝、ニューヨーク。なおみとセリーナ・ウィリアムズの全米オープン決勝の日。あれこれ懸命に頭をめぐらしていたのは、前夜、ほとんど眠れなかったからだ。

「眠らない大都会」ニューヨークにきているとはいえ、こちらまで本当に眠れないとなると、困ってしまう。その夜はマンハッタンのホテルに宿泊していたのだが、妙に寝つけず、寝返りをくり返す夜になってしまった。

別に、驚くべきことではなかったのかもしれない。土曜日はなおみの選手生活の節目になる日だったし、私にとっても、ヘッドコーチとして初めてメジャータイトルの決勝を迎える日だったのだから。この試合がこれからの私の人生にどんなインパクトを与えるか、それももちろん承知していた。睡眠不足の疲れを吹き飛ばすくらいアドレナリンが沸騰していたのも無理はない。

とにかく、私の頭はフル回転していた。何よりも、へまをしたくなかった。なおみの人生の記念碑になるはずの試合に備えて、彼女に完璧な練習をさせてやりたかった。

人生の一大事ほど、普段通りに過ごす

こんなときなのである、「ルーティーン」が大きな役割を果たすのは。

それはテニスに限らない。ビジネスミーティングだろうと、プレゼンテーションだろうと、大事なイベントに備えているとき、ルーティーンくらい効果的な調整法はない。

ともすれば気後れしてしまうような、初めて体験する大事を前にしても、きちんと日頃の習慣、ルーティーンを守る。すると、いつもと変わらないリラックスした気分に包まれて、最良のプレイを引き出してくれる。格別頭を使ったり、普段やりなれないことに手を染めたりしなくとも、心身ともにベストな状態で肝心な瞬間を迎えることができるのだ。無駄な時間やエネルギーの浪費を避けられる点でも、一歩前進と言えるだろう。

全米オープンの2週間は、あらゆる意味で、なおみが初めて体験する日々だった。それまでのメジャーな試合では、4回戦まで進むのがせいぜいだったのだから。しかし、初めて体験するこのグランドスラムでは、まず準々決勝に進み、準決勝に進み、ついには決勝にまでたどりついた。