いよいよ来年は経済的に自立しなければならないと語気を強めて語る太田さんだが、会社の給料は入社以来1円も上がったことがない。

「毎年年俸交渉があるのですが、前年の水準を維持したままでした。そろそろ上げてほしいと交渉するつもりです」

親から借金をしてまで味わう「文化的趣味」とは果たして本当に必要なものなのか。そう思う人もいるかもしれない。

「大学時代からおもしろいと思ったものへの出費は抑えられないんです」

そう語る太田さんのトレーナーは母親に買ってもらったもの。身につけるものも親に頼るのは彼なりの生存戦略なのだという。

いま1度家計簿を見てもらい、今後の貯蓄計画を聞いてみた。

「うーん、できればもっと趣味にお金を使いたいですね。あとは大手マスコミ時代には通っていた風俗にも行きたい。今の給料では年に1回行けるか行けないかでしょうか」

現実的に考え、今の会社では月給は上がっても数万円。転職を考えるしかないのではないだろうか。

「転職はしたくないんです。つらい仕事の我慢代として会社からお金をもらうのは大手マスコミ時代で懲りています。できれば今の会社で仕事量は増やさずに給料だけ増やしたい。あとは経費ももっと切れるようにしてくれたらいいんですけどね」

実は太田さんが私財を仕事に投入しているのは飲食費だけではない。

「そもそも本にかけられる予算が少なくて……。でも、自分が作るからにはトコトンこだわりたいのです。だから装丁のデザイナーや帯も自分が考える最高の状態にします。そうすると予算は簡単にオーバーするのですが、足りない分は自腹で補っています。周囲からやめろと止められますが、ベストセラーの本を連発して、給料が上がれば戻ってくるはず」

実際に太田さんの本はよく売れる。業界でも有名になってきた。彼の先行投資は出世という形でちゃんと戻ってくるのだろうか。

▼FUKANO’S POINT
会社員やめてフリーになっては? 貯蓄型生命保険はお勧めしません
今の太田さんの働き方は会社員というより経営者です。自分の生活設計に影響を与えてまで自腹を切るべきではありません。腕に自身があるならフリーになるのはどうでしょう。それなら飲食費や書籍代も経費で落とすことができるはずです。結婚も検討しているならやっぱりキャッシュは必要です。このままでは結婚相手が苦労することになります。それに奨学金も返せるなら一括で早く返したほうがオトク。貯蓄型生命保険は、いざというとき保障か返戻金を取るかの究極の選択になるためお勧めしません。手元の金を使ってしまう癖を直して、一日でも早く貯金すること。「キャッシュ・イズ・キング」で、現金は強いのです。
深野康彦
ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルリサーチ代表。『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』『ジュニアNISA入門』など、著書多数。