政府が繰り返し述べる「基地負担軽減」はウソ
米軍普天間飛行場の返還問題は23年前に遡る。
1995年の米兵による少女暴行事件をきっかけに、戦後ずっと基地被害に耐えてきた沖縄県民の怒りが爆発し、米軍基地の返還を求める声が一気に高まり、日米両政府は翌96年に同飛行場の返還を合意した。
返還は、宜野湾市民はもとより県民の悲願だが、県内の別の場所に移転するのが条件であった。私たちはそのように理解してきた。だが、本当にそうなのか?
沖縄返還密約の一部を暴き、機密漏洩に問われた元毎日新聞政治部記者・西山太吉が監修した『検証 米秘密指定報告書「ケーススタディ沖縄返還」』(土江真樹子訳・高嶺朝一協力/岩波書店/2018年刊)は、「辺野古新基地建設は、決して普天間撤去から派生したものではない」と指摘する。その一文を以下に引用する。
すでに、私が、『沖縄密約――「情報犯罪」と日米同盟』(岩波新書、二〇〇七年)でもとり上げたように、米国政府は、一九六六年、つまり沖縄返還(一九七二年)の数年前に「大浦湾プロジェクト」という辺野古総合基地建設の青写真を策定していた。この計画は、現在のキャンプ・シュワブの周辺の広大な水域を埋め立て(約九四五エーカー)、たんなる海兵隊の飛行基地にとどまらず、大浦湾が沖縄で唯一の深海湾(水深三〇m)であることを利用して、海軍の桟橋建設をも構想するという総合的機能を持つ巨大基地であった。(中略)この計画は、ベトナム戦争の泥沼化にともなう米国の財政の悪化なよって見送られたが、一つには、すでに、沖縄返還問題が徐々に日程にのぼり、返還後は、日本政府の協力を求めることができるのではないかとの期待感が出てきたからだとも言われている。
日本に2.5兆円かけて「辺野古」を作りアメリカに無償提供?
そして今、日本政府は建設費も維持費も負担する辺野古新基地建設を強行し、米国に無償でしかも永久に提供しようとしているのである。
政府は沖縄の基地負担軽減につながる「代替施設建設」と繰り返し強調するが、米軍普天間飛行場にない強襲揚陸艦が接岸可能な護岸や弾薬庫エリアなどを整備することから、沖縄県内では基地機能を強化した「新基地建設」と呼ばれる。
さらに埋め立て予定海域にマヨネーズのような軟弱地盤が広がることなどから、国は砂の杭約6万本を水深70メートルまで打ち込む工事を検討している。
沖縄県は工期について、埋め立て工事に5年、軟弱地盤の改良工事に5年、埋め立て後の施設整備に3年の計13年を要すると指摘。また工事費用についても、防衛省が資金計画書で示していた埋め立て工事全体の2400億円の10倍に当たる2兆5500億円に膨らむとの独自の試算を示し、新基地建設は「一日も早い米軍普天間飛行場の危険除去につながらない」としている。
菅義偉官房長官は2月14日の記者会見で、県民投票の結果にかかわらず、辺野古新基地建設を進める方針を明らかにした。
普天間返還合意(危険性の除去)は、60年代から米軍の悲願であった普天間に代わる基地を日本の予算で造らせようというのが狙いではなかったのかとの疑念は払拭できない。(文中敬称略)
1948年生まれ。ノンフィクションライター。月刊誌『Weeks』(NHK出版)スタッフライター、隔週刊誌『ダカーポ』(マガジンハウス)特約記者を経て、月刊誌『世界』(岩波書店)などにルポルタージュを寄稿。編著にNHK沖縄放送局編『“隣人”の素顔 フェンスの内側から見た米軍基地』、吉本隆明の語り下ろし『老いの流儀』(いずれもNHK出版)、著書に『沖縄 本土メディアが伝えない真実』(イースト新書)などがある。