※本稿は、高木徹也『私たちはなぜ死ぬのか 法医学者が語る「永く、よく生きるための技術」』(CEメディアハウス)の一部を再編集したものです。
解剖からわかるのは死因だけではない
法医学者が日々行っている解剖からは、どのような亡くなり方をしたか、いつ亡くなったかなど、死因以外にもいろいろなことがわかります。誤解を恐れずに言えば、法医学は広範囲の知的好奇心を刺激してくれる学問です。
ご遺体がどのようにして亡くなったかを究明するには、医学の知識だけでなく、生物学、物理学、地学、社会学などが関わってきますし、時代のトレンドにもある程度通じていることが求められるからです。
たとえば、交通事故で亡くなった方のご遺体を解剖すると、ぶつかったクルマの車種がわかることがあります。世界に名だたる自動車メーカーが何社もある日本には、じつにさまざまな形のクルマがあります。車高が高いクルマがあれば低いクルマもあり、バンパーが飛び出しているクルマ、バスやトラックのように前面が平らなクルマもあります。
ご遺体を解剖してみて、下から60センチの高さにぶつかった跡があったら「SUV系かな」と推定できます。膝と顔に同時にできたと思われる傷があったら、「トラックかバスかな」と考えることができます。
殺意の有無も推測できる
車種がすでに特定されている場合は、バンパーが当たったと思われる場所が車のバンパーの位置より高ければ、「加速してぶつかったんじゃないか」「ブレーキをかけてないな」「ひょっとしたら、殺意があったんじゃないの?」などと考えることもできます。
通常、ブレーキをかけると車の前面は沈み込みます。加害者が被害者に気づいてブレーキをかけていれば、バンパーの高さより低い位置に傷がつくはずだからです。
こうした所見が、加害者の発言のウソや矛盾を明らかにすることもあります。のちの裁判にも関わるため、法医学者としてはどのような小さな所見も絶対に見逃すことはできません。解剖は緊張の連続ですが、はじめはわからなかった真実が明らかになるのは、やりがいを感じる瞬間です。

