雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第10位の『海賊とよばれた男』。解説者は沖電気工業の川崎秀一会長――。

私は子どものときから本が好きで、いまでもジャンルを問わず読んでいます。そのなかでもとりわけ感銘を受けたのが、百田尚樹さんの小説『海賊とよばれた男』です。

明治から終戦、戦後の経済復興という激動期を生き抜き、日本の石油産業の礎を築いた実業家、国岡鐡造の生涯を描いた物語です。この本は2012年の夏頃、書評を読んで興味が湧き、書店で購入しました。上下2巻のボリュームですが、ページをめくるうちに引き込まれ、一気に読み通しました。

主人公の国岡のモデルは、出光興産の創業者である出光佐三氏です。本を読んで一番心に響いたのは、目の前に大きな困難が立ちはだかっていても、真正面から乗り越えていった国岡の生き方です。そうした国岡の強さの源泉となったのが、「世のため、人のため」という、若いときから守ってきたビジネスの鉄則でした。

「日本に安価な石油を供給し、国民生活を豊かにする」という経営方針は終始ブレることがない。それゆえ国岡は四面楚歌の状況に追い込まれたとしても、政府による石油販売統制にも、また国際石油資本による独占にも反対し続けた。そのような一貫した姿勢に私は魅了されました。

さらに感銘を受けたのが、国岡が神戸高等商業学校の恩師から贈られた「士魂商才」という言葉を、生涯胸に刻んで行動したことです。この言葉には、「社会・国家に尽くす武士の精神を忘れずに、ビジネスの才覚を発揮せよ」といった意味が込められています。ビジネスの世界に生きていると、ともすれば易きに流れがちです。しかし、国岡はどんなに苦しくても、長いものに巻かれることなく、最後まで信念を貫いた。戦後の日本人が忘れてしまった、国岡のそうした気高い精神が、大勢の読者の心を打ったのでしょう。