2007年の日本の最高裁判決から「賠償請求権」について考える

このメルマガのVol.127(【韓国徴用工問題(1)】日本には法的“ケンカ”の用意があるか? 安倍政権が見落としてはならない重要ポイント)でも論じたけど、国同士の平和条約・講和条約という一種の和解条約と国民個人の賠償請求権の関係についての日本の最高裁の考え方は以下のとおりだ。これは2007年の最高裁判決で、中国人元労働者が日本企業に強制労働させられたことを理由に訴えた事件の判決である。

(1)国同士は、今後お互いに何らの請求もしない。
(2)平和条約・講和条約によっても、国民個人の賠償請求権は完全には消滅しない。
(3)戦争中の被害に関する賠償請求権について、被害者が権利を行使できない事情がある場合には、時効消滅しない。
(4)ただし平和条約・講和条約というものは、後に民事訴訟が乱発することを避けるために締結されたものであり、個人の賠償請求権は消滅しないものの、民事訴訟で解決することはできない。
(5)民事訴訟で解決はできないが、個人の賠償請求権は完全には消滅していないのであり、被害者の被った苦痛を考えれば、その救済に向けて加害者は適切な対応をすべきである。

まず日本の政治家はこの最高裁の判決をしっかりと理解すべきである。そうすると韓国大法院の判決との違いは、(4)の部分だけであることが分かる。

自分たちが主張する理屈は、相手にも認めてあげる、適用することがフェアの考え方だと先ほど述べた。だから、この日本の最高裁の判決に照らせば、「1965年の日韓請求権協定(これは平和条約・講和条約と同じ和解条約である)によって、個人の請求権は消滅したのだからいまさらグダグダ言うな!」「個人の請求権は時効で消滅した!」と主張することはアンフェアであることが分かる。

それとも、日本の政治家は、三権分立が確立したこの日本において、日本の最高裁の判決を全否定するというのか。そんなことはできないだろう。だから日本の政治家は、日本の最高裁の判決をしっかり踏まえた態度振る舞いをしなければならない。

そうするとさらに、韓国大法院の判決を批判し、韓国政府に対してその判決に従うな! と主張することもアンフェアになる。そんなことを主張すれば、今度は逆に、日本政府は日本の最高裁の判決に従うな! もっと適切な対応をしろ! と言われたときに、日本政府はどう対応するのか。「日本は三権分立の国だから最高裁の判決に従わざるを得ない」と答えるなら、それは今、韓国政府が主張していることと同じだ。日本政府が最高裁の判断を尊重するなら、韓国政府が韓国大法院の判断を尊重することを認めなければフェアじゃない。

このように考えると、1965年の日韓請求権協定があったとしても、個人の賠償請求権は消滅しないし時効消滅もしないということを前提とした態度振る舞いをすることこそがフェアな態度といえる。