※本稿は、ロバート・プロミン(著)、田中文(訳)『こころは遺伝する』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
意外と高い、体重の遺伝率
表1に、2017年に5000人の若年成人を対象にイギリスでおこなわれた調査の結果を示した(2)。表の右側は何十年にもわたる遺伝学研究にもとづく推定値である。
遺伝率についての人々の考えと研究結果との開きが大きかったのは、体重と胃潰瘍だ。
人々が体重と胃潰瘍は最も遺伝率が低い身体的形質だと考えているのに対し、研究結果はこのふたつが最も遺伝率が高い形質に含まれることを示している。
人々は平均で、体重の遺伝率は40%、胃潰瘍は29%だと回答したのに対し、遺伝学研究の結果からは、体重と胃潰瘍の遺伝率はどちらも70%ほどだと推定されている。
他の形質にくらべて、なぜ体重と胃潰瘍の遺伝的影響が小さいと思ったのか回答者に訊ねたところ、こんな答えが返ってきた。「体重には意志の力が影響するし、胃潰瘍はストレスが原因だから」。意志の力とストレスはどちらも環境に起因すると人々は考えているのだ。しかしこの考えは正しくないし、その理由を知るのは重要である。
体重には意志の力が関係していると人々が考える理由は、食べるのをやめれば、当然、体重は減るからだ。私たちの文化は太りすぎの人に冷たい目を向ける傾向にある。肥満の人は自制心が足りないせいで食べるのをやめられないと思うからだ。
しかし体重の違いの70%がDNA差異で説明されるという研究結果は、だれでも食べるのをやめれば体重が減るという自明の理と矛盾してはいない。食べ物が突然手に入らなくなったり、胃バンディング手術を受けて食べられる量が少なくなったりすれば、だれでも体重が減る。
遺伝学研究が注目するのは、違いをもたらす「可能性のある」要因ではなく、ある集団における個人差を「実際にもたらしている」要因である。要するに、遺伝学研究とは「可能性」ではなく、「現状」を描写する研究だといえる。


