学業成績の個人差の半分以上は遺伝
体重の遺伝率が70%だということは、あなたのまわりにいる人たちの体重の違いに寄与する要因のほとんどは遺伝であり、食事や運動やライフスタイルの違いはあまり寄与していないことを意味する。遺伝的な理由によって、体重が増えやすく、減らすのがとてもむずかしい人がいるということだ。
同様に、胃潰瘍の原因がストレスだという思い込みの正しさを裏づける証拠もない。実際のところ、胃潰瘍はしばしば細菌感染を原因とするが、だからといって、DNA差異が影響しないわけではない。
食べ物の誘惑に負けやすいかどうかにかかわる遺伝的傾向が体重に影響するのと同様に、感染しやすさにも遺伝が大きく影響することがわかっている。
このように、環境への感受性の違いにも遺伝がかかわっていて、そうした遺伝的な違いもまた、私たちの生物学的、心理的な個人差を生み出す重要なメカニズムなのだ。
では、心理的形質についてはどうだろう? 図表1の残りの9つの形質についての人々の回答の平均値は36%とかなり高かったものの、研究による推定値の平均である58%よりはだいぶ低かった。
回答と研究結果との開きが最も大きかった形質のひとつが、私の研究テーマでもある学業成績である。人々の回答の平均が29%だったのに対し、遺伝学研究の結果からは一貫して、学業成績の遺伝率は60%ほどだと示されている。
子どもの学校での成績の個人差の半分以上が、生まれもった遺伝的差異によるのだ。
「心の遺伝」は低く見積もられている
回答の平均値を見ただけではわからないが、じつは、回答者の考えには広い幅があり、最も広いばらつきが見られたのが心理的形質についての回答だった。
たとえば、自閉症についての回答の平均は42%だったものの、6%の人は「自閉症は100%遺伝による」と回答し、14%の人は「遺伝はまったく影響しない」と回答している。
もしあなたが心理的形質への遺伝的影響を低く見積もっているとしても、それはあなただけではない。心理的形質への遺伝的影響についての人々の考えには大きなばらつきがあって、回答者全体の15%が、心理的形質に遺伝はまったく影響しないと答えている。
こうした幅が生じたのは、心理的形質への遺伝的影響はゼロだと考える「環境決定論者」や、100%遺伝的影響によると信じる「遺伝決定論者」が回答者のなかにいたからだろうか? そうではない。ある形質について遺伝の影響が大きいと見積もった人たちと、別の形質について同様の考えをもった人たちは同一ではなかったのである(7)。
本書をどんなふうに書くかを決めるうえで、この調査結果は決定的な役割をはたした。その昔、心理学者と世間の人たちがまだ遺伝の影響の重要性を受け容れていなかったころなら、図表1で示した「遺伝学研究の結果」を裏づける証拠をこと細かにお伝えしたはずだ。

