※本稿は、ロバート・プロミン(著)、田中文(訳)『こころは遺伝する』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
「環境」さえも「遺伝」する
ふたご研究のような遺伝学的手法で環境要因を分析したら、どんな結果が得られるだろう? 1980年代に私がこの分析にはじめて着手したときには、そんな研究はばかげているように思えた。環境要因に遺伝的影響が表れるわけがないと思っていたからだ。
結局のところ、それらは環境要因でしかないのだから、と。でも、ほんとうだろうか? この疑問が「環境のなかの遺伝」の発見につながったのである。
「環境のなかの遺伝」の最初の例のひとつは、心理学者が呼ぶところの「ストレスフルなライフイベント」だった。人が人生で遭遇する、離婚や貧困、職場でのいざこざ、病気やけが、強盗、暴力などの出来事だ。
こうした出来事に対する反応には個人差がある。ライフイベントという要因には、その出来事が個人におよぼす影響も含まれている。
同じ出来事でも、人によって経験のしかたが異なるからだ。ライフイベントについては数多くの研究がおこなわれてきたものの、そうした経験の個人差に対する遺伝的影響が分析されたことはなかった。
ライフイベントが単なる運の問題ならば、そこに遺伝的影響は認められないはずだ。
私たちは1990年にはじめて、ストレスフルなライフイベントについての遺伝学的解析をおこなった。対象となったのはスウェーデンの中年期のふたごで、別々に育ったふたごと、一緒に育ったふたごの両方が含まれていた(12)。
このSATSA研究では、社会的再適応尺度(13)と呼ばれるアンケートが使われた。これまでに5000件以上の研究で使われてきた、環境要因を測る指標で、人間関係の変化や経済状況の変化、病気などに関する標準的な質問項目からなる。
対象者の平均年齢が60歳だったことから、私たちはそれらの項目に加えて、退職、性的な能力や関心の喪失、配偶者やきょうだい、友人との死別といった、人生の後半に起きる出来事についても調査した。

