【秋元】作家の人間性が作品に表れると思いますか。

【前澤】そこは、正直いってよくわかりません。というか、作家自身もよくわからないのではないですか。会うたびに深い話をするというわけでもありませんし、深い話をしてもきっと意気投合できる気はしませんね。アーティストってみんな変人ですから(笑)。でも、それはそれでいいのです。その人というよりその人が生み出す作品が好きなのです。

アートとは、生活を彩り、暮らしの中にある風景

【秋元】私のように美術にどっぷり浸かってしまうと、作家と作品を分けるのは逆に難しい気がします。作品を、作者の精神的な産物として受け止めているようなところはありませんか。

秋元 雄史『直島誕生』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

【前澤】いえ、僕が観るのは色や形やバランスですね。そういう意味では、写真も家具も洋服も見方は同じです。深読みして作品単体に必要以上に意味をもたせるのは、あまり好きではないんです。

【秋元】バスキアはいま2点おもちですね。たとえば80年代の主要なアートを集めて、時代の空気のようなものを表現してみようという思いはありますか。

【前澤】ないです。ただ、バスキアはまだほしい作品がたくさんあるので、それらを一つひとつ買っていけば、その結果として80年代のものが集まったということはあるかもしれません。

【秋元】なるほど、あくまで結果として集まることもあると。

【前澤】美術館や展覧会だと、観せるときに歴史や背景といった意味づけがどうしても重要になりますよね。でも、僕は、好きなものをただひたすら買い集めて、それをみんなで共有して楽しむだけなので、余計なことは考えないし、その必要もないです。

【秋元】まあ、美術館というのは一種の教育装置ですから、どうしてもああいった展示の仕方にならざるを得ない。あれが正しい飾り方かといわれたら、そういうわけでもないのです。

要するに、前澤さんにとってアートというのは生活を彩るものであり、暮らしの中にある風景のようなものなのですね。

【前澤】まさにそのとおりです。大量生産されたものじゃなくて、一点モノや大事に受け継がれてきたものと暮らすことで、それをつくったり、描いたりした人に思いを馳せることができます。

環境と建築とアートがうまく調和する場所

【秋元】個人の美術館構想もおもちだとうかがっています。それはご自身の中ではどういう位置づけになるのですか。

【前澤】生活空間の延長というくらいの感覚です。毎日そこにいたいとは思わないけども、週に一回くらいそこに行くと新鮮な気持ちになれる。そういう場所のひとつですね。

【秋元】これまで感動したり影響をうけたりした美術館はありますか。

【前澤】デンマークにあるルイジアナ近代美術館のジャコメッティ(スイス出身の20世紀の彫刻家)がある空間はすごく好きです。遠くに池や木々が見えていて、その前に歩く人があって、さらにその前に「ヴェニスの女」のシリーズがあるという、抜け感のある展示の仕方が実にかっこいいのです。

【秋元】ルイジアナ近代美術館は、現代アートのプライベート美術館の草分けですね。ひとつひとつの作品へのこだわりがありますし、私邸から公開型の美術館へと発展していったいい例ですね。環境と建築とアートがうまく調和している非常に美しい美術館だと私も思います。

【前澤】あの場所は、本当に楽しいです。

前澤友作(まえざわ・ゆうさく)
ZOZO社長
1975年生まれ。早稲田実業高校卒業後、バンドの活動の一環として渡米。98年スタートトゥデイ(現ZOZO)設立。2004年ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を設立。公益財団法人現代芸術振興財団会長。世界的なアートコレクターであり、2017年にはフランス芸術文化勲章オフィシエを受勲した。
秋元雄史(あきもと・ゆうじ)
東京藝術大学大学美術館館長・教授/練馬区美術館館長
1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒。1991年、福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。瀬戸内海の直島で展開される「ベネッセアートサイト直島」を担当し地中美術館館長、アーティスティックディレクターなどを歴任。2007年から10年にわたって金沢21世紀美術館館長を務めたのち、現職。
(構成=山口雅之 撮影=宇佐美雅浩 取材協力=スターダイバー)
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