【秋元】文化大国のフランスに比べ、日本の文化に対する成熟度はどうですか。

【前澤】日本人は、美術品を鑑賞するのは好きで、見る目もあると思います。ただ、所有や保管という点では、残念ながらあまり意識が高いとはいえません。実際、すごく価値のある骨董品が、蔵の隅でほこりをかぶっていたり、先祖代々受け継がれてきた貴重品を、保管が面倒だからと二束三文で売り飛ばしたりしてしまう。そのおかげで、巡り巡って僕のところに来たりするのでしょうけど(笑)。

欧米では、歴史的なものを後世に残すことに、国を挙げて取り組んでいますが、日本は、その点ではかなり遅れています。芸術文化に割く国や自治体の予算も少ないし、公益財団法人一つ簡単にはつくれない、相続するにも税金が高い。いいものがどんどん国外に流出してしまうのも仕方ない気がします。

「北大路魯山人 蟹絵皿」を手に持つ前澤社長。(撮影=宇佐美雅浩)

アートをビジネスにする予定はない

【秋元】日ごろから、競争するより協調する社会にしたいと発言されています。今、世界は競争を強める方向に進んでいるような気がしています。どうすれば人々がもっと協調し合える社会になると思われますか。

【前澤】競争が強くなっていますか? 僕には社会全体が協調に向かっているようにみえますが。たしかに会社同士は競争しているのでしょうけど、でも、その会社も減っていくのではないですか。中途半端な会社はなくなり、本当に必要とされる会社だけが残る、自然とそうなると思いますよ。

【秋元】これから起業しようという若者の手本に、自分がなっているという自覚はありますか。

【前澤】ないです。僕なんかより素晴らしい経営者がたくさんいるので、そういった人たちをぜひ参考にしてください。

【秋元】今後、アートをビジネスにしていく予定はありますか。

【前澤】それはありません。ただ、自分でつくってみたいという気持ちはあります。特に陶芸をやってみたいですね。

【秋元】絵はどうですか。

【前澤】絵はダメですね。絵心がないのです。ドラえもんとか描かせたらひどいですよ(笑)。

億を超える金額でポップアートを購入

【秋元】美術品のコレクションを始めたきっかけを教えてください。

【前澤】10年ほど前に、会社の空いている壁に掛けようと、ロイ・リキテンスタイン(アメリカのポップアートの代表的作家)の結構大きめのペインティングを購入してからですね。それまでシルクスクリーンやポスターのようなものはいろいろ買ってはいたのですが、いわゆる本格的なペインティングというのはそれが最初です。

【秋元】10年前のリキテンスタインというと、すでにかなりの金額だったのではないですか。

【前澤】そうですね、億は超えていましたね。

【秋元】コレクションの入り口というと、一般的には印象派や日本画だと思うのですが、リキテンスタインというアメリカの現代アート(20世紀以降の美術)を選んだのは、どういう理由からですか。